ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: エンゼルフォール ( No.11 )
日時: 2011/05/12 00:07
名前: 遮犬 (ID: KnqGOOT/)

「うっ……」

少女はゆっくりと目を開ける。なにやら色々のものが散らかっている部屋のベッドで寝ていた。

「あ……起きた?」

そんな少女に優しく微笑みながら近づいてくる陽嗚の姿が、少女の目に映った。

「……誰?」
「誰っていわれても……それは僕も聞きたいことだよ」

陽嗚はベッドの傍にあった椅子に腰掛ける。

「……ここは?」

少女は陽嗚に不思議そうな顔をして聞いた。それに対して陽嗚は少し俯き、苦笑気味に答えた。

「はは……どこなんだろうな? 僕にも、正直分からないよ。生き返ったのか知らないけど」

その少年、陽嗚の言葉に少女は驚いた目をして陽嗚を見た。

「生き返った? じゃあもしかして貴方が私の契約者ですか!?」

突然、少女は体を前のめりにして陽嗚に聞いた。どこからか必死さが伺えてくる。

「契約者……? 何の話?」
「貴方は……あの本を見ましたか?」

あの本というと思いつくのは陽嗚にとって恐怖でしかない本しか思いつかなかった。

「あぁ、読んだよ……。信じられないことばかり書いていた」
「となると……やはり貴方が私のマスターですか……」

少女は陽嗚の顔を見つめながら言った。その表情はどこか切ない感じもする。
そんな少女に陽嗚は訝しげな顔で口を開いた。

「わけが……わからない。マスターとかなんだか知らないけど……俺は、記憶がなくて……自分が、生きているのか、死んでいるのかですらわからないから……」

段々と言葉が強くなってきてしまう。この少女には関係はないのに、つい、口調を強めてしまうのだ。

「いいですか? 貴方は死にました。でも、生かされたんです」

しかし、そんな陽嗚をもろともせずに少女は落ち着いた口調で言った。

「生かされた? 誰に? 何の目的で?」

陽嗚はただ少女に質問するしかなく、連続で問いただす。
真面目な表情で少女は陽嗚を見据えて言う。

「あなたは選ばれたんです。天使代行として」
「選ばれた? 天使代行? それは一体……?」
「それは——ッ!?」

その時、少女は何かに察知したようにいきなり立ち上がった。

「来る……」
「来るって何が—ー」
「……天使。つまり、敵です」

天使が敵。それは一体どういうことなのだろうか?
自分は天使代行ではなかったのか。しかし、この少女は天使を敵という。少女の言っていることはどことなく矛盾している気がした。

「ついてきてくださいっ!」

少女は陽嗚の手をとって窓を開ける。
風がふわっと部屋の中に舞い込む。それがどことなく心地いい感じがするが、今はそんなことは陽嗚にとってどうでもいいことだった。

「ッ! ここ二階……!」
「平気です!」

腕を引っ張り、少女は陽嗚と共に窓へと飛び出す。
勢いがあったため、心の準備も何もかもが整っておらず、陽嗚はそのまま空中に投げ出されることとなった。

「うわぁああああああ!!」

少女は華麗に近所の家の屋根へと舞い降りる。陽嗚は鈍臭くも尻餅をついて着地する。

「急ぎますよっ!」

少女は陽嗚の手を引っ張りながらも、ものすごい勢いで走る。

「急ぐって……どこへ!?」

振り回されるような形になりながらも質問をする陽嗚。

「天使のところにですっ!」
「何で!」
「決まってるじゃないですか! このままほうっておくと——天使に記憶を喰われるからです!」

少女は屋根を次々と飛び越えていく。陽嗚は少女に腕を掴まれているため、ついてきてはいる。

「天使に記憶を喰われる……?」

天使というのは確か神の使いか何かじゃなかったのか。何故記憶を喰らうのか。

「貴方は天使代行、私は召喚者、及び……通称、堕天使と呼ばれるものです」

少女は大きく飛躍し、地上へと降り立つ。陽嗚もそれにつられる形で何とか降り立つ。

「神のコンピューターと呼ばれるものがあります。神など実体は存在しないものなのです。神のコンピューターは天使によって管理されているのですが、天使のある一人がシステムを変えたのです。天使が、神になろうとしたのです」

少女は立ち止まる。陽嗚を掴んでいた手を同時に離された。
目の前にいた者。それは翼に白い羽を生やした姿は人間の者。

「天使代行の目的は……神のコンピューター、ゴッドイレギュラーと呼ばれるものを潰すことなのです」

その天使のような者はこちらを向く。そして、微笑む。
その顔に陽嗚は背筋が凍りつきそうになった。とても、冷血な目。天使といえたものではなかった。

「天使の力を解放してもらえますか?」

と、少女が陽嗚にいった。

「天使の力?」
「……もしかして……解放の仕方がわからないのですか?」

陽嗚は首を縦に振る。何も知らないのが当たり前だった。何も見ていないし、関わろうとも思わない。

「翡翠色の光を放つネックレスはどうしました!?」

陽嗚と少女が話している間にも天使と思わしき者はゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。

「今持ってるけど……! 危ないっ!!」

「ッ!!」

少女は天使と思わしき者に殴り飛ばされ、陽嗚のほうへと飛ばされる。

「だ、大丈夫か!?」
「貴方は……解放の仕方を思い出してください。それまで私が天使を…止めます」

少女は格闘家のように構える。陽嗚を守るということなのだろう。

「解放の仕方を思い出すって……」

そんなこと、何一つもわからない。

「はぁっ!」

少女が天使と思わしき者に打撃を繰り出すが避けられ、逆に打撃を受ける。

「くっ……!」

状況は少女にとって最悪だった。

(せっかく……ここに来ることが出来た。私は……見つけるまで……死ぬわけにはいかない……ッ!)

だが、体が少女のような彼女は天使と思わしき者に歯がたたなかった。

「ッ! ……!!」

陽嗚は今更ながらに気付いた。少女の名前を自分はまだ知らないということを。
そして、そこに何かヒントがあるのではないかと。

「名前……! 名前を教えてくれ!!」

陽嗚は叫んだ。すると少女はそれに答えるかのように

「旋風……(つむじ)。旋風ですっ!」
「旋風…! 旋風! 僕は君を召喚する!」

陽嗚はいつの間にか叫んでいた。
翡翠色をしたネックレスが輝きを放ちだす。

「ッ!!」

また、少女——いや、旋風と出会った時と同じ眩しい翡翠色の光に包まれる。

そして、目を開けた先には。

翡翠色の綺麗な6本の翼を生やし、少女はまるで別人のような雰囲気を保っていた。
それは堕天使といえるものではなく、まさに天使。

「……契約、完了。これより——天使を破壊する」