ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: エンゼルフォール オリキャラ少々募集 ( No.26 )
日時: 2011/05/12 17:51
名前: 遮犬 (ID: KnqGOOT/)

少女は、煌く翡翠の翼を羽ばたかせ、さっきまでの可愛らしい顔とは一変して凛々しい顔。
言動も、さっきまでの感じが全て吹き飛んで、まるで別人のように——堕天使、旋風は立っていた。

「……マスターは後ろに下がっていろ」

先ほどまでとは別人の旋風が背を向けて陽嗚に言った。

「本当に……さっきの女の子……なの?」

陽嗚は思わずそう言葉を漏らしていた。すると旋風は顔だけ後ろを振り向いて当然のように言い放つ。

「当たり前だ。正真正銘、私は旋風だ」

旋風は陽嗚に言い放った後、目の前にいる者——天使に顔を再び向けた。

「かかってこい。力の差を見せ付けてやる」

出会った初めの状態の少女の口からは、到底言わないであろう言葉を少女は言った。
そのあまりの変わり様に陽嗚はただ呆然とするのみ。
天使と思わしき者は旋風の態度に腹を立てたのか、険しい表情で勢いよく旋風に向かっていく。

「記憶が浄化する前に……片付けてやる」

その瞬間、旋風は天使と思わしき者の横へと移動する。移動の速度が軽く相手を凌駕していた。ついてこれずに天使と思わしき者は体勢を前のめりにし、既に隣にいる旋風へと顔を向けた。

「……はぁああっ!!」

旋風が連続で天使と思わしき者に打撃を浴びさせた。その速度はかなり速く、次々と拳が天使の体にめり込んでいく。
そして、最後の一撃を加えた後、天使は上空へとぶっ飛んだ。

「な……ッ!」

そんな怪力、旋風の見た目からは想像もつかない。陽嗚はただ唖然とその光景を見つめていた。
天使は大きく体を飛躍させ、地上へと叩きつけられる。それからうな垂れ、とうとう動かなくなった。多分、気絶か何かしたのだろう。
その天使と思わしき者を旋風は無理矢理起こし、頭に手を当てる。

「な……何をするんだ?」

その異様な雰囲気の中、陽嗚は明らかに何かしようとしている旋風に聞く。
旋風は特にどうとでもないような表情で天使を見ながら陽嗚の言葉に返事をする。

「こいつがさっきまで喰っていた記憶を元に戻しているんだ。……消化していない部分だけだが」

天使と思わしき者の頭の上に魂のようなものが浮かび上がる。それはさらに上空へといき、思い切り弾け、四方に分散していくようにして上空で見えなくなった。

「あれが記憶の具現化。それを解放することによって天使が喰らった記憶を戻すことが出来る。そして、この天使自体の記憶で……」

ポウッ、と旋風の手に何か白い気体が纏わりつく。それを旋風は先ほど、天使と争った道路に目掛けてその手を差しのばす。
すると、道路が見る見る内に修復していく。これはつまり天使の記憶を使って修復しているのだろう。

「記憶を抜かれた天使は、やがて消滅する」

旋風の言ったとおり、さっきまで旋風の横にうな垂れていた天使は跡形もなくなっていた。

「あの……さ。消化された記憶以外とかいってたけど……」

陽嗚は考えつく思いを必死で取り払う。いや、取り払いたかったからこそ、旋風に聞いたのだ。
だが、返って来たのは自分も思ってしまった実に残酷な真実だった。

「……浄化されきった記憶は、もう二度と戻らない。二度と、な」

旋風も哀しげに言う。旋風も辛いのだろうか……? 先ほどの戦いといい、修復行動といい、そんな感じは全く見られなかったが、突然ここで見せた哀しげな顔は人間味を感じさせられるものとなった。

「じゃあ……俺みたいに記憶喪失に……?」

旋風は陽嗚の質問に首を横に振り、無表情で言った。

「記憶を天使に喰われて、浄化された人は——死ぬ」
「え……?」

信じられなかった。それもそうだろう。
今さっき、目の前で人が死んだのと同じということを意味していたのだから。

「消化された記憶は神のコンピューター、ゴッドイレギュラーの力になる。人が死んだ後の記憶はごく数量だが……この方法だと、何十倍もの効率で稼げることが出来る」

つまり、通常だと人が寿命で死ぬとゴッドイレギュラーと呼ばれるものに微量だが、力が行くが……この天使が人間の記憶を喰らうことによって多くの力を稼げる、ということになる。
しかし、そんなことをして何の意味があるのだろう? そしてまた陽嗚はそのことを知ったことでどうしていいのかわからない。自分に一体何をしろというのか。心の中で渦巻く様々な現実に迷いが生じていた。

「マスターは、世界の真実の一部を知ったんだ。真実を知ったからこそ、戦わないといけない」

世界の真実の、一部? その言葉に陽嗚は心の中で考えてみる。
まだ他に真実というものがあるというのだろうか。そうだとしたら、それはどれほど残酷なのだろう。
自分の生きていた世界はこんなにも隠されたものが多かった世界だったのだろうか?

「……一体ゴッドイレギュラーって何なんだ?」
「ゴッドイレギュラー……世界の調律を保つ神のコンピューターと呼ばれるもの。今となってはただのイカれたものでしかないが……それを制御出来る者はこの世でたった一人だ」
「なら、そいつを見つけ出して……?」

そいつを見つけ出し、このおかしな現状を治してもらいたい。そうすれば何もかも全て上手くいきそうな気がした。しかし、その言葉に旋風は首を横に振った。

「ソイツはもう死んだ。しかし……ただ一つ、ゴッドイレギュラーにあるシステムを加えた」
「システム……?」

月の光が旋風を優しく照らしながらも旋風の表情は変わらず、冷静な口調で言った。


「世界の改変……通称、エンゼルフォールシステムと呼ばれるもの。それを組み込んでいた」


まだ冷たい風が陽嗚と旋風を誘っているかのように静かに吹き荒れた。