ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: エンゼルフォール オリキャラ少々募集 ( No.29 )
- 日時: 2011/05/17 23:43
- 名前: 遮犬 (ID: KnqGOOT/)
それは天使の中でもゴッドイレギュラーを操作することが可能だったたった一人の天使が作り出したもの。
その天使の名は、フォルティス。
エンゼルフォールは現実と死後の狭間に存在する異空の空間である。
本来、このエンゼルフォールは魂を浄化させ、天国へと続く道、地獄へと続く道へと誘う役目だった。
しかし、フォルティスはこのエンゼルフォールの役目を消し去り、現実へ天使を召喚する役目を持たせた。
つまり、エンゼルフォールへ天使が落ちると現実へ召喚され、人間が落ちると0.01%の可能性で記憶を失う代わりに天使の力を与え、天使代行となる仕組みに。
ゴッドイレギュラーはそもそも世界の調律を保つ神のコンピューターと呼ばれるもの。
どこにあるのかも普通の天使たちは知らないし、破壊することも出来ない。
「——ちょっと待ってくれ」
未だ散らかっている部屋の中で陽嗚は淡々と喋り続ける旋風を静止させた。
「はい?」
旋風はキョトンとした顔で陽嗚を見つめる。
あの戦闘後、話は部屋に戻ってからとなり、現在に至っている。
先の戦闘モードの旋風ではなく、現在は最初のおっとりした旋風の方に戻っている。
小さなテーブルを挟んで対面している状態で二人は話をしていた。
「破壊することが出来ないのにどうやって……?」
陽嗚の問いに旋風は少々戸惑い、説明を始めだした。
「実は……フォルティスは完全に死んでいるわけではなく、この現実のどこかに存在しているんです」
陽嗚が唖然としているのを軽くスルーし、旋風は話を続けた。
「つまり……エンゼルフォールをフォルティスも利用し、召喚されてきたんです。この世界に」
陽嗚はなにやら頭がすごく混乱してきていた。陽嗚がそんな状態だということは特に気付いた様子もなく、次の話へと移る。
「天使代行の目的は確かにゴッドイレギュラーを壊すことも目的ですが……まだ目的はあります。それは、フォルティスを見つけること。エンゼルフォールシステムを"勝ち抜くこと"です」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! 頭が本当に狂いそうだ……!! まず……なんでフォルティスはこっちに?」
いきなり連続的にわけのわからないことを言われたため、陽嗚は慌てて待ったをかけた。
そうしなければ、話を理解する前に自分の頭が壊れてしまいそうだと思ったからだった。
季節は秋だというのに何故か体が暑く感じる。相当焦ったのだと陽嗚は自分で自覚をした。
「フォルティスはシステムに自分の記憶を入れ込んだのです。そうすることによって自動的にこの世界へと召喚されたんです。つまり、記憶だけの存在です」
要するに、フォルティスはこちらの世界に来るために死んでなお、自分の記憶をシステムに組み込んだ。そう考えるのが妥当だろう。
「じゃあ人間の形はしていないのか?」
「いえ……それを考えてゴッドイレギュラーで自分の入れ物を作ったみたいです」
フォルティスはこの世界にいて、今もなお記憶を挿入した自ら作りし人間の入れ物としてこの世界にいる。
そう考えると、フォルティスのやっていることは神をも恐れぬ行為だと思えた。フォルティスはもはや、神と同等の人物なのではないか、と。
最後に、一番聞きたかったことを陽嗚は旋風に問う。
「……エンゼルフォールシステムって何なんだ?」
旋風は今までで一番真剣な表情をして陽嗚へ答えた。
「フォルティスの作り出した……いわば、天使同士のサバイバルのようなものです」
「サバイバル……?」
それがエンゼルフォールシステムの真相? もっと複雑な何かかと思っていた陽嗚にとっては間の抜けた回答だった。
「はい。エンゼルフォールから記憶を喰らうために召喚される天使。そして天使代行と堕天使。これらでサバイバルをし、生き残った者はエンゼルフォールを操れる他、願いを叶えることが出来るんです」
「ということはつまり……?」
「……ゴッドイレギュラーを破壊する方法は、エンゼルフォールシステムを勝ち上がることなんです」
「エンゼルフォールに、何の関係が? 操れたとしても何の意味もないんじゃ……?」
エンゼルフォールを操れることが出来る。それがどうしてゴッドイレギュラーを破壊することに繋がるのだろうか。そこに陽嗚は疑問を抱いたのだった。
旋風は「よく考えてみてください」と、声をあげた。
「もし、エンゼルフォールが操れるとしたら……あそこは生と死の境界線。天国や、地獄、冥界なんかにも繋がります。つまり……フォルティスがこの世界に来た、という生の理を狂わすことが出来ます」
「えぇっと……ということは、フォルティスの存在を消し去るってこと?」
「すなわち、そういうことです」
だとしたら、この世界でフォルティスの代抗体を見つけるより、かなり手っ取り早い方法だった。
この世の中の人間全てを調べて、特徴も何も分からない人間一人を見つける。それがどれだけ大変なことか。この一生を賭けても全く時間は足りないだろう。
「お願いですっ! 私と一緒にエンゼルフォールシステムを勝ち上がってください!」
その旋風の言葉に陽嗚は心が揺らいだ。何故揺らいだのか、それは分からない。
自分に何をしろというのか。自分が何のために生きていて、何のためにここにいるのかもわからないのに。
戦えというのか。守れというのか。何故自分がやらなければならないのか。
「ごめんけど……俺には無理だよ」
「え……?」
旋風はその言葉の衝撃に陽嗚の手を思わず離してしまう。
まさか断られるとは思わなかったのだろう。
「僕は……あのまま死んでいればよかったんだ。なんで生き返ったのかも……わからないから……!」
生き返ることがどれだけ嬉しいとか言う人がいるかもしれない。
だが、陽嗚は違った。
——こんなことなら死んでいればよかった。いっそのこと、いなくなればよかった。
自分は自分じゃなく、他人。本当の僕ではない。
遥や登や未来たちと過ごしたはずの思い出は、ない。もし、自分が自分でないと知られたら——見放されてしまうんじゃないだろうか。どこか遠くへいってしまうんじゃないだろうか。
自分で、自分を殺すことになるのだから。
「僕は……どうしたらいいのかわからない……。世界を救えとか、戦えとか、守れとか」
込み上げる思いはやがて、陽嗚の心から旋風へと放たれた。
「僕にどうしろっていうんだよっ! これ以上! 僕を……僕をさ……苦しめないでくれ……!!」
いつの間にか、陽嗚の瞳からは涙が零れ落ちていた。
耐え切れない感情を出会ったばかりの、それも人ではない天使へとぶちまけた。
そんな自分が、見苦しくて、汚くて、もういっそ楽になりたかった。
「……陽嗚君?」
「……ッ!?」
旋風に自分の名は"教えていない"はずだというのに、旋風は陽嗚の名前を呼び、そして——
しっかりと、優しく、包み込むように陽嗚を抱きしめた。
「つ……むじ……?」
「……あなたは、一人じゃないですよ? 私が、これからは、私がついています」
優しくそう呟く旋風に、心が落ち着き、その拍子に涙がさっき以上に溢れ出る。
「思い出なんて、これから作っていけばいいんです! 陽嗚君は——陽嗚君ですから!」
「ッ……!!」
まだ会ったばかりだというのに。何故だろう、なんだか懐かしい感じがした。
そして、何より今の自分を認めてくれた。そのことが驚いて、嬉しくて、感謝でいっぱいだった。
「……ありがとう、旋風……」
僕は、その天使の体を優しく抱きしめ返して、目を閉じた。