ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: エンゼルフォール オリキャラ少々募集 ( No.35 )
日時: 2011/05/12 23:35
名前: 遮犬 (ID: KnqGOOT/)

「でも……なんで一緒の生活を送らないといけないんだ?」

学校へと向かう陽嗚と旋風。そんな中、陽嗚がパッと思いついた疑問を口にした。
紅葉の木、落ち葉があぁ、秋なんだと感じさせてくれる学校の通学路を陽嗚と旋風は歩いていた。
それはですね……と、難なく質問を返す旋風。

「まず、陽嗚君がいないければ私は力を発揮できません」

力というのはあの堕天使の状態のことをいうのだろう。またあの風景が脳裏に浮かぶ。
自分と同じような目に遭っていた人が短い時間だがいたのだ。記憶が全てもぎ取られている状態の人が。
だが、実際自分に何ができるというのか、陽嗚は分からなかった。
いきなり天使代行とか言われて、記憶を奪うあの"恐ろしい者"と戦えといわれてもすぐ頷けるはずがない。

「それと……」

旋風がさっきまでの笑顔とは裏腹に今度は少し真剣な顔で陽嗚に言った。

「……陽嗚君の学校の中にも、天使代行、及び堕天使、さらには天使もいるのです」
「学校の中に……?」

信じがたいことだった。
自分と同じ経験、あるいは旋風と同じような者が昨日通っていた"明るそうな"学校の中にいるというのだ。
さらには昨日のあの恐ろしい天使までもが。

「天使はともかく……天使代行とかはいたらダメなのか?」
「エンゼルフォールシステムは……天使代行たち関係なく勝者を決めるんです。勝者は一人。それ以上も以下もありません」

旋風は歩くことをやめて、立ち止まる。秋風で落ち葉が周りで暴れ始める。

「そんな……一緒に戦うっていうことはできないのか?」

少しの望みをかけて旋風に聞いてみる陽嗚だったが、それに対しての旋風の反応は難しい顔をして悩む姿だった。

「それは……難しい話だと思います。天使代行は記憶を取り戻したいという気持ちが強いですし……自分が必ず勝者となり、自分の死因や何もかもを無くしてしまおうとするはずですから」

返ってきたのは人間の欲望という心の弱さだった。
しかし陽嗚もまた同じようなことを考えていた。エンゼルフォールの力で、自分の記憶や全てを取り戻そうと。やり直そうと。
だがそれは天使代行の立場からすると当然だった。欲望ではなく、願望なのだ。
一緒に戦うといっても結局は自分も自分のことしか考えていない、という思いが陽嗚を苦しめる。

「私は契約して力が出せますが……そうではない堕天使もいます」
「ということは……その堕天使は最初から旋風の戦闘の時と同じぐらいの力が出せるということなのか?」
「はい。そういうことです」

確かに襲われたら自分一人ではどうしようもない。さらには旋風の言う天使の力もまだわからない。

「だけど……堕天使や天使がエンゼルフォールシステムの勝者になって何がしたいんだ?」

天使代行の目的は恐らく記憶を取り戻すことがほとんどだろう。
だが堕天使と天使の目的が全くわからない。エンゼルフォールの力を操れたとしてもメリットが見つからないのだ。

「……天使は皆、フォルティスのしもべのようなものですから……勝者になると、記憶が膨大に手に入ります。その結果——プログラミングされたエンゼルフォールシステムの目的である世界改変が行われてしまいます」

世界改変は天使が勝ち抜くと行われてしまう。そうでないにしろ、ゴッドイレギュラーには力が蓄えられる。世界改変に必要な力を蓄え切るまでに誰かが勝者になるか……どちらにしろ、不利なことに見えてくる

「フォルティスはそもそも天使の住む世界では死んでいるのも同然なので、大規模なことはできないんです」

フォルティス自身もこのシステムの終焉を見届けなくてはならない。つまり世界改変、もしくはエンゼルフォールによって存在を消滅させられるか。
逃げ場所がない、ということを意味していた。

「堕天使の目的は……それぞれ様々なんです」
「様々?」

陽嗚は天使と同等の目的かと思ったが違うようだった。

「はい……。実は、堕天使は元々天使ではなく、人間の人もいるんです」
「え……?」

堕天使の中に元々人間だった人がいる。どういう意味なのか。

「実は、私もその内の一人なんです。この世界にある"もう一人の自分"を探すために……」

旋風は俯きながら話している。どうやら言わなかったことに申し訳なく思っているようだった。
しかし、それ以上に陽嗚は旋風が元々は人間だったという言葉に同様を隠せないでいた。

「もう一人の自分……?」
「はい……。もう一人の自分というのは記憶のことです。人間だった頃の記憶です」

その言葉に陽嗚は驚いた。人間だった頃の記憶がない?
ということは旋風もまた、陽嗚と同じということ。
だが、この少女は精一杯明るく振舞っている。でも心の中には自分同様に不安でいっぱいなのだろう。
何故だか陽嗚は自分が情けなかった。この少女は昨日、不安がっていた自分を励ましてくれた。
本当に励まして欲しいのは自分だというのに。他人のことを第一に考えていたのだった。

「だから……私は探さないといけないのです。そのためにはエンゼルフォールシステムを勝ち抜かなくては……すみません……! 本当に……! 私、ゴッドイレギュラーを破壊するだなんて言っておいて……!」

旋風の目からは涙が零れ出ていた。自分はそんな旋風に何も出来ない。
だが、ただ一つ言えることがあるのだとすれば。

「……わかった。ありがとう、教えてくれて。……僕さ、ずっと不安だったんだ。……自分は、一体何のためにここにいて、何のために生きてるんだろうって」

旋風は涙を流しながらも陽嗚の顔を見た。旋風の表情は——驚愕の顔をしていたが。

「ようやく決心がついたよ。……戦う。……自分のためでもあり、旋風のためでもある。何でここにいるかなんて後回しだ。僕は、自分の記憶を取り戻す」

「……陽嗚君」

旋風は呆然と陽嗚の顔を見つめている。

「改めて……だけど、よろしくね? 旋風」

僕は、出来るだけ優しく、優しく旋風に微笑んだ。
僕には何も出来などしない。それは事実だ。だけど、守りたいものがある。

——もう二度と、何も失いたくなんてない。

呆然としていた旋風は陽嗚の言葉に涙を拭い、笑顔で答える。

「はいっ! 陽嗚君!」

この少女はいつでも明るかった。陽嗚はそれを自分が不安がらないためにのことなのかもしれない。そう思っていた。だがそれは、結局のところはわからない。
陽嗚は、この笑顔を失いたくない。そう心からこの時、思ったのだ。

「行こうっ、学校にっ!」

陽嗚は持ち前の時計を見て、遅刻寸前の時刻へと到達しそうになっていることに気付いた。
その時刻を見て、旋風も慌てふためく。

「しょ、初日から遅れなんてダメですっ! 早く行きましょう! 陽嗚君!」

到底見た目からは想像できない腕力で陽嗚を引っ張り、走り出した。

「うわっ、ちょっと! 手ぇ引っ張らないでくれ! うわぁああああ!!」

ものすごいスピードで二人は学校まで走っていった。




一方で、そんな二人の姿を見ている二つの影があった。

「へぇー、アレが東方の天使代行か〜……」

不気味に笑う、少々短髪の"女性"。陽嗚と旋風の走り去る様子を後ろから眺めている。

龍尾りゅうび、まず東方の天使代行から仕留めよか」

関西弁のその女は隣にいる男に声をかける。

「ふっ……よかろう。我の絶対なるマスターよ」

男の言葉を聞き終え、頷くと女性は口を再び歪ませ、呟いた。

「楽しみやな……!」

陽嗚たちに二つの影が迫りつつあった。