ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: エンゼルフォール オリキャラ少々募集 ( No.36 )
- 日時: 2011/05/13 00:01
- 名前: 遮犬 (ID: KnqGOOT/)
「ふぅ〜……なんとか間に合ったな……!」
息を切らしながら陽嗚は旋風と校内にいた。まだ廊下で話をしている生徒も多い。
「こんなに急がなくてもよかったかもね……」
と、陽嗚は疲れを隠す感じに無理して旋風に微笑みかけた。
「そうですね! ……あれ? 陽嗚君、具合悪いですか?」
顔を覗き込んでくる旋風。その様子に、疲れというものは一切存在しない。
堕天使というものはこんなにも体力があるものなのか、と陽嗚は暫く開いた口が塞がらなかった。
「い、いや……別になんとも……」
笑ってみせるが息切れと更になんだか久しい感じの痛みが腹から凄まじい勢いで陽嗚を苦しませる。
(あ、朝飯の痛みが……)
旋風にものすごいスピードで連れて行かれたせいもあってまた痛みがぶり返してきたのである。
走った後の肉体的疲れと、腹の痛みに耐える精神の辛さはまさに陽嗚にとって地獄といえる。
「ほ、本当に大丈夫ですか……? 診てもらったほうがいいんじゃ……」
「だ、大丈夫だから……あはは…」
平静を装い、陽嗚は教室へと向かおうとする。
何故自分はここまで耐えているのかはもちろん、旋風の笑顔を消したくないというのが一番の理由だろう。
それに一生懸命自分ために作ってくれた料理を食って腹を壊すというのは……プライドというか、それは男の色々な意味でダメだと思った。
だが、この痛みに半分幸せを感じているのも事実だった。
決してM体質というわけではなく、ちゃんと自分は痛みを受けている。それだけで生の実感があった。
自分は生きている。この苦しい地獄そのものすらもそう感じさせてくれたのだった。
(あ、後……もう少し……!)
教室まで後、数メートルというところだった。何か騒々しい足音が聞こえたと思うと——その正体が突然現れた。
「陽嗚ー! 待ってたぜー!」
何者かが、というより、登が教室から出てきたと思った途端、いきなり陽嗚の体を押した。
軽くだが、それだけで陽嗚のピークを超えさせるのには十分であった。
「う……ぅ……」
そのまま陽嗚は床へゆっくりと倒れていく。情けない声を出しながら、ということは全く分からない。
「え!? おいっ! 陽嗚!?」
「ひ、陽嗚君! しっかりしてください! 陽嗚君!」
意識の遠ざかる陽嗚へと最後に届いたのは二人の声と、二人の心配そうな顔と真面目な顔と——HRの始まるチャイムの音だった。
視界がゆっくりと開けたその先には、公園があった。一人寂しそうにブランコに乗っている少年が見える。
その少年の虚ろな目線の先には、楽しそうな家族。
陽嗚は直感で分かった。あのブランコの少年は自分なのだと。面影も自分とよく似ていた。
小さい自分は、悲しそうに俯き、ブランコに座っている。
(自分は昔から両親がいなかったのか……?)
その姿から想像できることといったそのぐらいだった。
その時、小さい自分に声をかけた少女がいた。パタパタと小さい自分に走り寄り、話しかけている。
白いワンピースの似合う……顔はよく、見えない。声が小さいながらも聞こえてくる。自分と、少女の声のようだ。
「何、してるの?」
少女は自分に話しかけた。すると自分は俯いていた顔をゆっくりと上げ、答える。
「寂しいんだ。悲しいんだ」
「どうして寂しいの? 悲しいの?」
「僕には皆が当たり前のようにあるものがないんだ。だから寂しい、悲しい」
皆が当たり前のようにあるもの。自分は、一体何が哀しいのだというのだろう。寂しいというのだろう。
「あなたは——?」
何だろう? よく聞こえなかった。変なノイズのようなもので掻き消されたかのように。
「え?」
小さい自分は驚いた顔をして少女を見た。少女は小さく笑うと、小さい僕を手に取り、
「いきましょう? ——。私が、——」
少女の言葉、そのほとんどがノイズによって掻き消されているかのように聞こえない。
「うん!」
小さい自分は嬉しそうに頷くと少女と一緒にどこかへ去っていってしまった。
「ん……」
陽嗚はゆっくりと目を開ける。そこは白いベッドがいくつも並んでおり、医療道具が多くあった。
どうやらここは保健室のようだった。自分はその真っ白なベッドへと寝かされていた。
「一体……今のは?」
夢のことが気になった。あれは自分の幼少の頃の過去なのだ。
あの映像に何か手掛かりはあったのだろうか?よく思い返してみる。
女の子……女の子?そうだ、あの白いワンピースの女の子は誰だ?
遥……ではないだろう。あの少女は異様なほどに白かった。となると、少しスポーツ肌の未来も違う。
じゃあ誰だ?この学校でまだ仲良しの人でもいるのだろうか。
思い出……写真……。写真……!?
陽嗚はあることを思い出しておもむろにポケットを探った。だが目当てのものは見つからない。
(そうか……昨日履いてたズボンのポケットの中だ……)
思い返してみるとたった一枚だけ写真を自分は見つけていた。その中に——見知らぬ少女がいた。あの少女で間違いない。遥たちはあの少女を知っているはずなのだ。
自分の幼少の記憶に出てきた少女。必ず何か握っているはずである。
その時、もう片方のポケットの中に入っている携帯が音を鳴り始めた。
おもむろに取り出し、確認する。それは非通知だった。
携帯には誰のメルアドや電話番号も入っていなかった。生き返った時に消去されたのだろうか。
なので、全て非通知ということになる。この時間、学校は授業中であるため、登たちではないようだった。
「……もしもし」
おそるおそる携帯を出る。すると返ってきたのは
「よう! 初めましてやな!」
関西弁の明るい女性声だった。初めて聞く声に少々戸惑う。
自分の記憶に関わりのある人だったらよかったのだが初めまして、ということは違うのだろう。
「あの……誰ですか?」
一応聞いてみることにした、それが驚愕な答えが返ってくることになった。
「あたしは麻上 炬鳥(あさがみ ことり)。西方の天使代行や。よろしくな、東方の天使代行」
「天使代行……? もしかして……!」
「あぁ、そうや。あたしも天使代行。今なぁ……あんたの可愛い道具と鬼ごっこしてんねや」
「可愛い道具……? ……まさか!?」
よく考えたら旋風はどこにいるのか。あの性格からして自分を看病するために傍にいるのではないのか。
「おいっ! 旋風はそこにいるのか!」
陽嗚はらしくない怒鳴り声で炬鳥に向けて言い放つ。
「そう怒鳴るなや。別にこの"道具"を倒したいんちゃう。お前を狙ってたんや」
「俺を……?」
「そや。やのに……この"道具"、お前は今自分のせいで寝込んでいる、行かせないとかいってやな……全く笑えるわなぁ? お前は寝込んで何もできひんのに律儀に使えんやつを守るなんてな」
「黙れっ! どこにいる!?」
炬鳥から場所を聞き出そうと口が荒々しくなる。旋風が危ない。直感でそう物語っていることが陽嗚を荒だたしくさせていた。
「空き地や。お前らが今日通った通学路の中道を通っていったところにあるわ。待ってるで」
炬鳥はそれだけ言うと、電話を切った。急いで陽嗚はベッドから飛び出し、持ち物を持ち、自分の制服のブレザーを着る。
「旋風……!」
陽嗚は、翡翠のネックレスを持って部屋の外へと走り出した。