ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: エンゼルフォール オリキャラ少々募集 ( No.40 )
- 日時: 2011/05/14 14:44
- 名前: 遮犬 (ID: KnqGOOT/)
眩しい光が顔に浴び、旋風はゆっくりと目を開けた。
視界が多少、ボヤけてはいたが、だんだんとハッキリと開けてくる。
「……ここは?」
旋風が目を覚ました場所は、陽嗚の部屋のベッドの上であった。
隣では寝息をたてて眠っている陽嗚の姿があった。その姿を見て、旋風はホッとする他、笑顔になる。
「こんな私でも……守れたんでしょうか?」
旋風はその寝顔を見て呟く。だが、旋風にとっていつまでもこうしてはいられないのが現状だった。
「……私には、時間がない……時間が……」
旋風は遠くを見るような目をしながら、続けて呟いたのだった。
目の前で寝ている、陽嗚の気持ちよさそうな、幸せそうな寝顔を見ながら。
「うぅ……」
陽嗚は目覚めて、背伸びをする。随分と寝てしまっていたようだった。
周りをキョロキョロと見回し、ベットの上を確認する。すると、そこにいたはずの旋風の姿がなかった。
「あれ……? 旋風っ!?」
ベットの下や、色々部屋の中を探したが、どこにもいない。だんだんと不安になってくる。
(もしかして……!?)
嫌なことを連想してしまう。まだ朝方だというのに、陽嗚は大きく声を上げて「旋風!」と呼んだ。
「はい? 呼びましたか? 陽嗚君。あ、おはようございます!」
と、旋風は部屋の扉のノブを握りしめながら顔だけ覗かせて陽嗚を見ていた。
「あぁ、よかった……。なんだ、もう起きてたんだね……って! 熱は?」
旋風がいてくれたことによる安堵感に浸されたせいもあって熱のことやら、陽嗚は色々忘れかけそうになった。
「あ、はい! 陽嗚君の看病のおかげで随分と良くなりました! ありがとうございます」
旋風は笑顔で陽嗚にお礼を言った。陽嗚はいつまで経ってもこの笑顔には負けると心から思う。
「……とにかく、よかったよ。……で、その右手のお玉ってー……?」
そして、もう一つ、恐怖の思い出が蘇って来た。感覚的に腹元がキュゥっと押さえつけられてる気がする。
「ご飯作ってたんです! 冷めちゃいますから早く食べましょう!」
「え……あ、うん……」
予想は的中してしまった。陽嗚の腹元でまたあれを食べたら酷いことになる、と信号でいう黄色を差していた。
どうしたものか。断るに断れない。しかし、昨日自分が体調を崩したのは旋風の料理のせいでもある。
男、陽嗚は迷った挙句に食べると決断した。またぶっ倒れる覚悟を決めて。
だが、陽嗚の予想は大きく外れることになる。
一階へ降りて、食事が色とりどりに並んでいる場所へと鎮座する。そして、おそるおそるその料理を一口、口にした。
「う、美味い……!」
「本当ですか? よかったです!」
素直に旋風は喜んでいる。陽嗚は昨日との違いにただ驚くばかりだった。
昨日とは比べ物にならないぐらい、ものすごい美味しかった。昨日のアレはなんだったのだろう? と、不思議に思うほどだった。
「私、勉強したんです! 陽嗚君の寝ている間に頑張って料理の本で!」
と、いいながら陽嗚に何冊もある料理本を見せてきた。だとしても……この変わり様は大抵の人間では出来ないだろう。それに、陽嗚が寝ている間に勉強したとしても、結果がすぐ出るのは当然、不可能に近い。
しかし、ここまでプロ並み……といっては何だが、遥ぐらいの料理が一日未満で作れるとなると、陽嗚は純粋に凄い、と思った。
「でも短時間でよくここまで……あ、昨日のも美味しかったんだけどっ!」
陽嗚は慌てて昨日のご飯のことを誤魔化そうとする。しかし、それを見透かしたかのように旋風は苦笑する。
「昨日の料理、全然ダメでしたよね? だから私勉強したんです! 陽嗚君が二度と体壊さないように!」
(え……バレてた?)
演技をしたつもりだったが、やはりあの激痛は表情に出るようだ。隠しきれようがなかったみたいだった。
「ご、ごめん……」
謝らなければならない気がし、陽嗚は頭を下げて謝った。せっかくの手作りを食べておいて不味い、だなんてバチがあたるだろうと思ったからだった。
「いえ……こちらこそ申し訳ございません! 今日からはもう大丈夫ですから!」
「でも……すごいね? よく覚えて……」
「料理本見れば、作り方書いてますし……私は人間ではなく、天使ですから」
旋風が少々ためらいがちに言った。それが人間ではないから出来た、ということを意味しているものだと重い、陽嗚は自分自身で後悔した。
「あ……いや、そんなつもりじゃ——」
その時、家のインターホンが鳴り響く。少しの沈黙の後、「出てくるよ」と言って陽嗚は扉へ向かった。
「はい、どちら様……遥?」
扉を開けると、そこにいたのはいつも自分のご飯を作ってくれたり世話を焼いてくれている遥だった。
「朝、いけなくてごめんね? 昼はまだ食べてないでしょ?」
と、遥が遠慮がちに言う。その表情は本当に申し訳無さそうである。逆に、こちらが申し訳なくもなってくる。
「えーっと……」
どう答えようか迷っていた。旋風は自分の存在はみんな知ってるって言っていたが、実際、陽嗚は旋風が皆に知られてるところ、見てない。そのためにいまいち確証が持てないのだ。
それに持てたとしても、同居しているなんてこと、遥はどう思うだろうか?
「あれ? 陽嗚君、どなた様ですか?」
——しかし、最悪のパターンがきてしまった。
旋風が陽嗚を心配して玄関まで来たのだ。遥と旋風の目が合う。
(だ、大丈夫だよな……? 僕の知り合いはみんな旋風と知り合——)
そんな安易な考えを陽嗚は混乱しながらも思い悩む。しかし、遥の口からはその考えを崩す言葉が出た。
「——誰?」
その場が凍りついたような感じだった。
「え?」
旋風は驚きの声をあげる。どうやら旋風にも理解不能のようだ。
もう一度確認するが、陽嗚の知り合いは皆、旋風は元々いた、という設定にされているという。
遥はもちろん、陽嗚の知り合いだった。いや、知り合いよりも親しい関係である。
だが——遥は旋風を知らないという。
「陽嗚? 誰……なの? この人……」
遥の声が震えていた。さらには顔が俯きも始める。
「え……? ほら、あの、俺の親戚の……」
「陽嗚に親戚なんていなかったじゃない!」
それは陽嗚にとってもわからないことである。何せ前の自分ではないのだから。
その言葉は陽嗚の心を傷つけた。だが、この状況はどう説明すればいいのか、考えるのが先だった。
旋風は驚きすぎて声も出ないようだ。その場を呆然と見ているばかり。
「えっと……」
陽嗚が言い訳の言葉を試行錯誤しながら見つけようとするが、遥は耐え切れなかった。
「……もういい。私以外にちゃんと大事にしてくれる人いるのね! ……陽嗚のバカッ!」
「え! あ、ちょっと! 遥!」
陽嗚は叫んで呼び止めようとするが、遥は涙の流れ落ちる顔を拭いながら走り去っていった。
「……どういうこと?」
呟き、陽嗚はへたりと座り込み、呆然とする。凄く申し訳ないことをしたような気分になる。
何より、ずっと自分のことを気遣ってくれた遥を泣かせてしまった。
誤解とはいえど、説明して何になるだろうか?
旋風が天使で、自分はその天使の契約者たる天使代行で……一回死んでいる。
こんなこと、いえるはずがない。むしろずっと黙っていたいことだった。
こういうことを避けるために、旋風とは既に知り合いといった形にさせているみたいなのだが……。
「記憶上書き(メモリーダウンロード)がされていない……?」
旋風が驚いた表情をしながら呟いた。
「記憶上書き?」
「はい……。通常、契約がされたら自動的にその契約者との何らかの関わりを持つ者にされるシステムです」
記録上書き、と呼ばれるシステムによって通常は記憶の改変が行われるらしい。
「……遥の他のクラスメイト、登とか未来とかは適用されていたのか?」
「はい……。会って普通に話しをしたりしまして……その時、あの炬鳥という人から連絡を……」
どうやら登たちには適用しているようだ。だが、何故遥だけがされていないのか。
「遥とは一番面識あるはずだよ? なのに何で……」
「……考えられることは……」
旋風は深刻な顔をする。良い情報ではなさそうだった。
「……何か、あるのか?」
旋風はその言葉に頷く。陽嗚はそんな旋風に向かって詰め寄り、口を開いた。
「教えてくれ。何が原因なんだ?」
だが、聞いても旋風は答えてはくれなかった。ただ、深刻な顔をして黙っていた。
そのことが、陽嗚にとってはとても嫌な感じがして——その場からすぐに、消え去りたい気持ちに駆られたのだった。