ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: エンゼルフォール オリキャラ少々募集 ( No.43 )
日時: 2011/08/11 03:52
名前: 遮犬 (ID: hF19FRKd)
参照: 諸事情により本来とは異なる物語の進め方をしております

とある大きく都市の中に聳え立つビルの最上階にて、霊体ともいえる体を持ち、力も無さそうな若い男が一人、部屋の中で優雅に外の景色を眺めていた。
格好は黒いスーツに身を包み、髪は舞踏会にでも行くのかと思わせるほどの格好ぶりで、オールバックに仕上げている。
その男が持っているもの。それは、この世の知識を全て脳の中に詰めている。それは人ではない、"堕天使"と呼ばれる存在。
広い部屋の中で一人はとても心細く感じさせる。本棚が横側に数個並べられており、どこか知的な感じが漂わせる。デスクが男の前に置いてあり、その上には一台のノートパソコンがおかれてあるだけで、他には何もない。
一つの会社の社長室のような振る舞いだが、雰囲気はそれとは全く違う異質なものだった。

「情けないものだな……私がこのような状態にいるとは」

ただっ広い部屋の中から下に広がる景色を眺めながら呟いた。
自分の軽そうな体など軽く包み込むぐらいの椅子に座り、優しそうに、だがどこか鋭い目線で世界の風景を見つめていた。

「……亭主様」

突然、部屋の中へと入り、紳士服を着こなしている黒いシルクハットを優雅に被っている"女"がそう呟いた。
一見、男に見える女は膝を地面につき、彼に頭を下げながら申し出た。

「まもなく……世界改変……いえ、貴方様の望みの世界に変える時がきたようです」

女がそう言うのにも関わらず、以前同じ表情で彼はずっと世界の景色を眺めていた。

「そうか……"あのシステム"が遂に……」

男はゆっくりと椅子を回転し、机においてあったパソコンに向き合う。
いつの間にか光を失っていたはずのパソコンは起動しており、タイマーが表示されていた。
現在の時刻は、午後、11:59。

「……始まる。——全てを、終わらせるために」

彼は、その指で、ゆっくりとキーボードにあるエンターキーを押した。
画面に表示されたのは『エンゼルフォールシステム起動』と、書かれた画面がパソコンを埋め尽くしていた。




一方、陽嗚と旋風は近くの商店街を歩き回っていた。
陽嗚は昨日、思い出した一枚の写真のことが気になっていた。どうにも何かがありそうな気がする。
遥と会った後、写真を調べてみた。だがそこには、

「あれ……? 確かにここにいたはずなのに……」

見知らぬ少女の姿は消えていた。いつもの陽嗚を含む、遥、登、未来と写っている写真でしかない。
これは一体どういうことなのか。この写真を見つけたのは昨日のことで、それも旋風がここに来る前のことである。

「旋風に聞いてみるか……? いや、何か様子がおかしいし……また日を改めるかな」

そういってポケットに写真をしまいこみ、陽嗚はどこか悩んでいるような表情をしている旋風に

「外にでも出かけないか? 色々と調べてみたいこともあるし……」

陽嗚の言葉に旋風は珍しく一回で反応しなかった。「旋風?」と再び声をかけると、

「え!? あ、はい! す、すみません……」

と、動揺しながら答えた。どこか様子が変な感じがした。少なくとも、いつもの旋風ではなかった。
陽嗚はそんな様子に、首を傾げながら考える。

(ちょっとでも気分転換させたほうがいいかな……? それと、遥の件もどうしようか……)

遥は自分のことをよく思ってくれているみたいだがそれは前の自分のことを、である。
今の自分を遥は見てくれていない。そう思うだけで胸がものすごく痛むような気がした。

(とにかく今は……平然を装わないと……。記憶を全て、取り戻すまでは)

そうして現在に至るわけだが、未だ俯きながら元気そうに無く歩いている旋風に目を向けた。

「んー……あ、そういえばもう昼だね? 何か食べよっか」

どう話しかければいいのかわからなかったため、少し悩んだ挙句、こうした発言をする陽嗚だが、そう言っても返事を返してはくれない。
現在の時刻は、11:59。そろそろ昼ご飯を食べていい頃だと思ったのである。

「今日はせっかくの休日だし、旋風も行きたい所があったらいいなよ?」

陽嗚は自分なりにできることを探し、旋風に声をかける。
どうにも自分はこういうことが慣れていないみたいだ。頭の中が真っ白になりかけていた。

「——私、行きたいところがあるんです」

いきなり旋風が顔を上げて、陽嗚を真っ直ぐと見つめていった。

「どこに?」

真っ直ぐと決意したかのような目に多少の戸惑いを感じながら問う。

「それは——」

旋風が口を開いて、言葉を発する刹那、突如、世界が変わったような気がした。
時刻は12:00。商店街は未だ賑わいを無くさない。いや、"無くさないのことがおかしかった"。

「始まって……しまいましたか……」

旋風が真剣な表情で呟いた。どういうことだか分からない陽嗚は、辺りを見回して驚いた顔で旋風を見つめながら呟いた。

「これが……?」

目の前に突如として現れたその世界が変わったと錯覚させられた"モノ"を見て、言う。

「はい。とうとう……エンゼルフォールシステムが作動されたのです」

目の前に現れた景色、それは——天使の羽を背中に纏ったものが前方に何十体と待ち構えていた。

「なんだ……これ……!?」

陽嗚は恐怖で足が震え、微笑みながらこちらに歩んでくる天使を見つめる。
ゆっくりと、確実に自分たちの方へと歩いていく天使の姿。
混乱している頭の中、考えられることは一つ。
——このままだと、殺される。
そんな狂気に満ちた考えが足を竦ませる。

「陽嗚君! 行きますよっ!」

旋風は陽嗚の手を取ったその瞬間、陽嗚たちは翡翠色の光に包まれた。
旋風が旋風でなくなる瞬間でもあり、戦闘を行う体勢であることがわかった。

「しっかりと掴まっていろ」

翡翠色の髪をひるがえし、見る者を魅了するかのような凛々しい者。
6本の翡翠の翼を生やして大きく空を飛翔した。

「どうして……? 商店街の人たちは……?」

陽嗚はおそるおそる自分の手を引いて飛んでいる旋風に聞く。

「この街の住人の中に紛れ込ませていた。この街は……既に、戦場だ」

と、旋風が呟いたのを陽嗚は聞き逃さなかった。

「それって……」

陽嗚はそこで押し黙る。怖くて言えなかったという方が正解だろう。
自分の頭にふと過ぎった考えはとてつもない威力で陽嗚に衝撃を与えた。

「今どこに向かっているんだ?」

出来るだけ下を見ないように旋風の後ろ姿を見つめながら言うが、その問いに、旋風は答えなかった。

これは単なる始まりだった。

——エンゼルフォールシステムは世界の今、本当の姿を現す引き金だったのだ。