ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: エンゼルフォール 更新再開〜 ( No.64 )
日時: 2010/11/24 14:10
名前: 遮犬 (ID: XvkJzdpR)

世界の本当の姿。
それはこの人間の世界に天使が混じっており、その天使は人間の記憶を喰らう。
それが最終的に指し示すのは、存在の遺失。つまりは死ぬよりも辛い存在の滅亡を意味していた。

天使には三種類あり、普通に天使と呼ばれるものと魔天使と呼ばれるものと堕天使と呼ばれるものである。
天使は、感情を持たず、ただ人間を喰らうだけの異形の者。
逆に魔天使は、感情を持ち、あらゆることにおいて知能がある。
魔天使は天使なるものを生み出すことが出来、それを使って自分の力や存在し、
さらにはゴッドイレギュラーに力を与える者。
魔天使を倒さなければ天使は増える一方ということだった。
堕天使は、それら二つとはまるで目的が違った。さらには存在理由も。
基本は魔天使と同じような能力を持つ者であるが、ゴッドイレギュラーを頼らず、人間の力、
そして自分たち天使だけの力でこの世の条理を保とうとする者のことを総称し、堕天使と呼ぶ。
天使代行をパートナーにして戦うものもいるが、戦わないものもいる。
パートナーにすることで本当の力が出せるということだが、実際パートナーにしているものは少ない。
それに、目的が定められていないということもあり、目的が自由なのである。
ゴッドイレギュラーを破壊することや人間を守ることや他の目的のためにいるもの、それは様々である。

天使代行。それはゴッドイレギュラーを破壊することの出来る希望といえた存在。
人間という生き物に望みをかけ、天使の力を加えた異能の力を持つ人間。
その代償は、記憶。
何よりをも変えがたい、自分の生きていた証を司るもの。
その証を失くしたものだけが、天使の力を得ることが出来る。


この異なる異能者たちと現世が交わっている。
それがこの世界の在り様であり、また真実だった。




(もう、時間がない)

旋風は、一人焦っていた。
すぐ傍の部屋では陽嗚が寝ている。どうやら自分の"契約者"が何やら陽嗚に言ったようだった。

——そんなに急ぐことか?

心の中で聞こえてくる声。
それはもう一人の自分、天使の力を発動した時の凛々しい旋風の声であった。

(私は……陽嗚君の傍にいてはならない)

旋風は心の中の自分の"契約者"に応答するかのように思う。

(私の傍にいると……一番、危険だから)

陽嗚と共に壊そう、止めようと言ったゴッドイレギュラーは"納得させるための口実"。
そのゴッドイレギュラーを操る者から"逆に狙われている"ということは明かしていない。
そう知っておきながら、陽嗚が危険と知りながらなおもここにいる。

それは、本当に陽嗚のことを守りたいと思ってしまっている自分がいた。
本当は混乱して、錯乱して、泣き叫ぶかと思った。
だけどこの少年は違った。
この少年は心底悲しんだのだ。誰かも分からない人の死に。
自分は一度死んでいるというのに、他人の心配をしている。
それも記憶がない。さらには生きている理由すらも分からない。
だけどあれだけ真剣に怒っていたのだ。叫んでいたのだ。この少年、陽嗚は。

(私は……最低です。消えた方が陽嗚君のためと分かっているのに)

陽嗚の傍にいないと本当の力が出せないというのは本当だった。
だがそれは陽嗚の所持しているネックレスに原因がある。
既に天使代行の力でネックレスは本当の力を取り戻した。
ゆえにあのネックレスさえあれば、自分は半分ぐらいの力ならば引き出すことが出来るのだ。
それをもって去ればいいものを。その行動が陽嗚を幸せに、安全にすると知っているのに。

(何だか、何故だか、懐かしい感じがするんです)

それは最初に陽嗚に出会った時に思ったことだった。
懐かしい匂いがした。それは自分が感じたことのない思いだった。
この世界に降り立ったことだけでも感謝するぐらいだというのに。
この陽嗚という少年は、"何か"があった。

(エンゼルフォールシステムが、起動してしまった。もう、時間がないんです)

旋風は一人、悩む。そして、悶える。

いずれ、この陽嗚という優しき少年から離れなくてはならない時を決意して。

(それにあの、遥っていう人……あの人は——)

思ってしまった、考えてしまったことに後悔した。
そんなはずはない。そんなこと、あってはならない。
これ以上、陽嗚を悲しまさないで欲しい。

旋風は、願う。そして、決断する。
もう、大体の目安はつけている。
自分の行かなくてはいけない場所が、ある。


(——私の、記憶のある場所に)


少し寒い冬風が小さく窓を叩いていた。
それはまるで、ノックをする音のように。
誰かが、いるような気すらした。