ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: エンゼルフォール 何の手違いか参照 1000突破とか ( No.76 )
- 日時: 2010/11/24 14:50
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: XvkJzdpR)
目が覚める。
いつものような日差しは浴びてこない。どうやらカーテンを閉め切っているようだった。
視界が一瞬ボヤけ、また再び眠りの世界に入ってしまうところだったがなんとか起きてみる。
すると眠気を次第に薄くなってくる。これが目が覚めたということなのだろう。
「ん……今何時だ?」
そういえばここには目覚まし時計がない。何故ないのかというのは愚問だった。
それは必要ないからである。毎日のように少女が自分を目覚めさせて——
「……あれ?」
異変に気付く。
寝ぼけていたのだろうか。こんな異変に気付かないだなんて。
いつもの少女の声が聞こえなかった。あの心地よい目覚めがなかった。
「……遥?」
いや、違う。遥は最近自分を起こしにはこない。
じゃあ誰が今まで自分を起こしていたのか。ゆっくりと思い出す。
「旋風……?」
旋風。そう、人間ではない天使のことだった。
あの天使の微笑みを浮かべた顔と元気のいい声がない。
それは何故か不気味に感じた。
「旋風っ!」
胸騒ぎを感じて少年、陽嗚はベットから飛び起きようとする、が。
「ッ!!」
激痛が全身を襲う。
何故だか自分は怪我をしているかのようだった。
見ても外見は全く異常はない。
だが一向に痛みは収まることを知らなかった。
「どうなってんだよ……!」
震えた声で陽嗚は呟く。
この数日で様々なことが一気に陽嗚に現実として襲いかかった。
そしてそれは、陽嗚を絶望の底へとたたきつけるのはたやすかった。
ただ単に記憶を失くしただけならまだよかったのかもしれない。
人だったら、自分はどれだけ幸せだったのだろうと考える。
だが、自分は既に死んでいるというのだ。
それも、人として生き返ってはいない。天使の力を得ただけの姿は人間という存在——天使代行としてだ。
自分が一体何をしたというのか。一体何なんだと頭を抱えてうずくまる。
そうしていれば、きっといつか救われるとそう思った。
でもそれは逃げているだけだった。現実から。
自分は今、世界を救う力を持っているとする。
このまま何もしないでいれば、世界は変わり、人が消え、また新しい何かが生まれる。
それも、いいのかもしれない。そこまでさせてしまったのが人間だというのなら。
だけど、それをまた立て直せるのも人間なのではないか。
この世界はなくなって欲しくはない。ここは人間だった自分がいた場所だから。
だとして自分に何ができるというのだろうか。
天使の力を持っている。そういわれても実感がまるでない。使ったこともない。
嘘なんだろう。そう思いたかった。
だが昨日、それが現実として目の前で起こった。
その前にも様々な形で自分と同類の者がいることを知った。
この数日間は、陽嗚にとってはまさに地獄そのものだった。
世界が、怖いのである。そしてまた、その世界に再び人間ではなくして戻ってきた自分が——怖いのである
「どうすればいいっていうんだよ……!」
しばらく頭を抱える。そしてその後思い立ったかのように旋風の名前を叫ぶ。何度も、何度も。
だが、返ってくるのは何もない、無音だった。
「あ……」
一人になるのはこんなにも悲しく、寂しいものなのかと心からそう思った。
——俺は、何でここにいるんだろう。
自問自答を繰り返す。そして目を瞑った。
——また、会ったね
……お前は、誰なんだ?
——君が一番知ってる人だよ
僕が……一番知っている人?
——そう。僕は、君。君自身なんだよ。
お前が……僕?
——うん。思い出してくれた?
いや……分からない。
——そっか……
……お前は、僕だと言ったよな?
——うん。そうだよ
じゃあ、一つ聞いていいか?
——答えられる範囲だったらね
……俺は、何のためにここにいると思う?
——どういう意味?
僕は、自分が存在している理由が分からない。どうしてここにいるかとか。
——それは、とても難しい質問だね
僕は、一体何なんだ?
——……君は、君だよ
どういう意味だ?
——君は、一人の物体でしかない。この世界では君は一つのちっぽけな存在でしかないってことさ
そんなことは分かっているよ。だけど……
——いや、分かっていないよ
何がいいたいんだ……?
——君は、ちっぽけだ。そんな一つの存在でしかない。だけど、君は大きく両手を伸ばしていない。
いつも、ずっと、今も、手は塞がったままなんだ。
それが、一体……?
——君は、何もかもを拒んでいる。この世界の何もかも。
ッ……!!
——これが世界の真実なんだ。君の住んでいた場所は、こんなにも変わってしまったんだ。
……僕にどうしろっていうんだ。僕は、ちっぽけな存在だ。そんな奴が一体どうしろって……
——もう、諦めている。君は手を精一杯伸ばすことなく。君は、何も守れない。
僕は伸ばしてるっ! 必死に、必死に! ついこの間までは僕は確かに人間だったはずなんだっ!
なのに……そんな、そんな人間の時の記憶が全てなくて、その時はもう、人間じゃなくて……!
もう、これ以上どうしたらいいんだ……! 分からないんだよ……!
——……君は、全ての人を救おうとしてるのかい?
全ての……人?
——そんなこと、出来るわけないよ。全ての人を救う、それが君のような存在だけで出来たら……。
でも僕は……
——考えすぎず、まず目の前の温もりを守らないといけないんじゃないのかな?
目の前の……温もり?
——そう。君の、人間だった頃の君の姿、性格、癖とか何でも。それを知っている人たちや、傍にいる人。
傍に……いる人……。
——そのことが分かれば、君が僕のことを思い出してくれるまで、後もう少しだね。
——もう、時間がないみたいだ……。
あ、待ってくれっ! まだ——!
目が覚めた。
そこは、さきほどと変わらない部屋。
ゆっくりと陽嗚はベットから降りた。今度は激痛など走らなかった。
「僕の……守るべき温もり……」
そう、呟いて陽嗚は固く拳を握り締めて
颯爽と走り出した。