ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: エンゼルフォール 更新開始しますっ ( No.87 )
- 日時: 2011/05/13 22:39
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: KnqGOOT/)
- 参照: エンゼルフォール、二期スタート。
貴方は私の知らないところで見え隠れする残像のように、儚く目の前から去っていってしまった。
取り戻したいのに、この手を貴方の体に触れさせたいのに、どうして届かないのだろう?
貴方はこんなにもすぐ傍にいるのに。どうしてこんだけ遠いんだろう?
いくら名前を叫んでも、貴方は——としか聞こえない。
私はいくら苦しめられたとしても、傷つけられたとしても、貴方は成長していくんですね。
私はずっと待っていた。貴方が、貴方であるように。私がどれだけ傷つこうが、貴方を——待っていた。
全て、貴方が微笑む姿を見たいから。私は、私を殺さずにはいられないんです。
貴方が成長する過程に、私が道を塞いではならないのだから。
ジメジメとした空気、そして陽が長時間にわたって照らされたアスファルトは蜃気楼のように歪んで見える。
季節は、夏だった。夏風というものは全て生暖かく、冷たいと感じるものは何一つ感じられない。
セミの鳴き声が都会の方でも煩く鳴き、住宅街では所々風鈴の鈴の音が少しだけ聞こえる。風自体があまり吹いていないのだから、それもそうだろう。
ついこの間までは春風が心地よく、梅雨の時期で時折雨が降ったりもしていたが、今ではすっかり夏という感じだった。
「暑いな……」
一人、少年がそんな真夏に近い温度であるアスファルトの上を歩いていた。人々が多数行き交う中、少年は太陽に手を振りかざしながら歩く。
「そろそろ、かな」
立ち止まり、少年は右手を上空に振りかざした。すると、右手がどんどん鉄の塊で侵食されていく。最後に形状されたものは——ガントレットだった。
「テスト……開始」
その瞬間、行き交う人々が全員立ち止まる。機械音や、セミの鳴き声もピタリと止まった。立ち止まった人間全員ニヤリ、と顔を綻ばせて不気味な笑顔を作り、少年——柊 陽嗚(ひいらぎ ひお)を見た。
一斉に陽嗚へと目掛けて飛び掛ってくる周りの一般人のはずの者たち。しかしそれらの正体全て——天使であった。
四方八方から襲ってくる人々を右、前、上、後ろ、右、左、上……と、順序を決めて右腕で殴り飛ばしていく。
だが、その刹那、後方にいた天使が陽嗚を殴りかからんと手を大きく振り上げていた。
「——ッ!」
陽嗚が後ろを振り向いて避けようとした時、凄まじい勢いでそこにいた天使が殴り飛ばされ、天使の団体の元へとぶっ飛んでいく。
「大丈夫ですかっ!?」
可愛らしい声が陽嗚の耳に届く。大切な人の声だった。もう二度と、離したくない。失いたくない声。
陽嗚は今ここにいて、その声を聞いている現実に嬉しさを込み上げる。
「旋風っ! (つむじ)」
「遅れてすみませんっ! 洗濯物を——!」
旋風の後ろに更に天使が。しかし陽嗚はそれを逃さずに右腕を溜めて、押し放つ。
ドンッ! と、重い音がしたと思いきや、そこにいた天使は大きく吹き飛ばされていた。陽嗚のガントレットには緑色の何かが纏わりついている。
「早く倒そうっ!」
「はいっ!」
陽嗚と旋風は声を合わせて背中合わせに向かう。その時に陽嗚は旋風の手を握った。
すると、旋風の体に異変が起き、翡翠色の光を全身に溢出させる。その光が消えたと思うと、そこにいたのは——6本の翡翠色の翼の生えた旋風の姿。
「"こっちの旋風"もちゃんと守りきれよ?」
「ふっ、分かっている。マスター」
凛々しい状態の旋風はそれだけ言うと、瞬く間の間に目の前にいる無数の天使を薙ぎ払っていく。
負けじと陽嗚も右腕を振るい、目の前の敵を殴り飛ばす。それを繰り返し続けていった結果、天使は全滅を喫した。
フリーズしていたかのように、どれもこれもが止まっていたその場の風景は再び夏を感じさせる現実に戻る。
セミの鳴き声、そして車の音や機械の音。どこから現れたのか人々もまた、その場に復活していた。
「よし……! 帰ろう、旋風」
「はいっ!」
〜エンゼルフォール:二期開幕〜