ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 瞳を、開けて——————? ( No.11 )
- 日時: 2010/09/28 16:09
- 名前: 十六夜 ◆aUgcx1Sc9Q (ID: COldU63y)
第二話 一歩、そのまた一歩
「何でも……ない」
そう繰り返してもう一度後ろを見るとさっきの視線はもうなくなっていた。やっぱり気のせいだったのか。
何故かは分からないけれど心の中で安心しつつまた走り始めた。
そう、気のせいだ…………
ちょっと自分に言い聞かせてそれを忘れようと走る速度を速める。するとすぐにいつもの通学時に電車に乗る駅に着いた。
そこでようやく威風兄さんは走るのを止め、三人で歩きながら切符を買い駅のホームへと行く。
流石とも言うべきか通勤ラッシュで人は多く日本の人口多さを改めて知った。……いや、いつもだけど。
「あ、じゃあ僕は先に行くね〜」
「ん? あぁ、じゃあな」
「行ってらっしゃい」
いつも憂の通う中学行きの電車が先に来るため私達はひらひらと手を振りながら憂を見送った。
憂も能天気そう(失礼)に手を振り笑顔で電車に乗って通学して行く。……そう言えばあいつ英語の課題やったのかなぁ、とか思いつつ。
「…………」
ちゃらん。
威風兄さんのトレードマークとも呼べるいつも着けている十字架のネックレスが動いた衝撃で鳴る。
こんな音はいつもなのでそんなに気にしてはいなかったのに今日はやけに気になった。
そう言えば父さんが死んじゃってからもうずっと着けてるんだっけな…………
その事については何も聞かないのが3人の暗黙の了解となっていたけど久しぶりにその事について考えた。
勿論うっかり聞いてしまうほど馬鹿では無いけど。
「……え?」
誰も、何も言っていないのに、何かが聞えた。
誰も、私を見てないのに、見られている気がした。
視線を感じて私にしか分からない言葉を発している。
……私にしか分からない言葉? 今までそんな事を考えた事すら無いはずなのに。
鋭いのに何処か哀しげな視線に思わず叫び声を上げるかと思ったが人が多かったので叫ばずに済んだ。
だけど冷や汗と鳥肌が出ては止まらない。突然どうしてしまったのかと思うほどだった。
「……奈央?」
訝しげに私を見ている威風兄さんの声でようやくハッと我に返り何でもない、と言い首を振った。
本当は何でもない訳が無いけれど言える訳も無いのでとりあえず首を振っただけだけれど。
(……あぁ、そうか)
そんな感情を渦巻かせつつようやく気がついた事があった。私がこんなにも怯えていた理由。
言葉が聞えた気がした、見られている気がした。そんな理由ではない。
一歩、そのまた一歩…………と。
《何か》が私に近づいてきているのだ。