ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 瞳を、開けて——————? ( No.15 )
日時: 2010/10/12 19:31
名前: 浅葱 ◆jnintUZIrM (ID: m26sMeyj)
参照: http://PCが変わったので名前も変えてみました← 十六夜です

第三話 声

「奈央、お前今日何か変だな」

「え? ……いつもじゃない?」

通勤中の電車。ラッキーな事に今日は席ががら空きだったので二人とも座って話す事が出来た。
そして座った途端、威風兄さんがそんな事を言い出したので私は肩をすくめながら冗談を交えてみる。
まぁ、兄さんの言う事は尤もなんだけど。


今日の私は、何処か変だ。


「…………」

そしてそれは恐らく、いや絶対にさっきから今もずっと感じているこの“視線”なんだろう……きっと。
誰かがストーカーしてるにせよ、こんな“視線”を浴びたのは生まれて初めてだ(いや、分からないけど)。
威風兄さんは私のあんな返事で納得したのかしてないのか溜息を着くと持ってきていた本を読み始める。
私も一応、持ってきた本を読んでおく事にした。


(多分、これだったら“視線”を忘れられるだろう)


そう思っていつも以上に文字を読み取り本独特の世界へと入り込む様にしてみる事にした。
……ある意味、無駄な努力の様に思えたけどやらないよりはまぁましかな。と思ったので。
だけど、無駄と分かっている以上、当然本の世界に入り込む事なんて出来やしない。


しかもさっきより、視線が鋭くなった気がする。


(随分凄い視線だなぁ……でも、それにしても)



あの視線が妙に悲しそうな気がするのは、どうしてなんだろう…………



《次はー吹鎌駅ー次はー吹鎌駅ー》

暫くして、私は聞き流していたアナウンスが吹鎌駅の言葉を聴いた瞬間にようやく我に返った。
吹鎌駅が私達の通う高校、那瀬高校のある駅なので。
威風兄さんはその前から気づいていたらしくようやく気づいた私を見ながら少しおかしそうに笑っている。

「気づいたんだったら教えてくれたって良いじゃんか」

私は敢えて隠す事無く威風兄さんに告げ、未だおかしそうに笑う兄さんをこれまた隠さずに睨んだ。
それでも相変わらず、兄さんは笑ったままで何処か腑に落ちないがもう何も言わない事にする。
そしてすぐに電車は吹鎌駅へと着き、私達は急いで降りて改札口へと向かう。

そして階段を降りきったと同時に背後から強い衝撃と自分を抱擁する手が自分を掴んだ。



「奈ー央っ! おはよ……って、うごぁっ!!」

「あ、彩だったんだ……不審者かと思った」

……右ストレートを見事に食らって華麗に吹っ飛んだ我友人、もとい不審者扱いをされた人物を見る。
彼女の名は鷹田彩。同じ高校1年生で中学校からの友達……と言うか(一応)親友。部活も同じ。
私と彩の関係はこんなもんだが、今日はプラス私の気も立っていたので結構酷くなりました、はい。
ふと横を見てみるとさっきまで居た威風兄さんはこつぜんと姿を消していました。


多分、逃げられた……畜生。


「不審者ってちょっと酷くない!? てか今日どしたの?」

「え? ……どうしたもこうしたも別に何も無いよ」

って、今日は変わったとか何かあったとか結構聞かれるのはどうしてなんでしょうね。とツッこむ。
彩は不思議そうに私の顔を覗き込んでいて私は思わず顔を逸らす。理由は特に無いけれど。
じゃあ、まぁ良いか。と納得した風に溜息を着いた彩はもう行こう!と学校の方向を指差した。



誰のせいで、止められたんだか……


「でさでさ、もう時期ジャズの公演があるんだって!」

彩は早速自分の話題を話し出したので幸運な事に私はしばしの間“視線”の事を忘れられていた。