ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

「始まり…」 ( No.6 )
日時: 2010/09/28 19:55
名前: 茶侍 ◆ejQgvbRQiA (ID: tA56XhER)


ザワッ・・・さぁっ・・・・・

大きな桜の木から・・ヒラヒラ・・・ヒラヒラ・・・
花びらが舞い降りていく・・・





—その花びらをつかもうと一生懸命に手を伸ばしている少女がいた…

「あっ・・・」

(つかまえた…!)

嬉しそうに微笑む少女は、手に入れた花びらをしばらく眺めていた。





(この花びらは…きっと私に何か言いたいんだろうな…でもごめんね。あなたの言葉は、私には分からないの…)


そして…花びらは少女のてのひらから飛んでいく—

「…ぁ!飛んで行っちゃった…」

だが、花びらはそこにいた''誰か''につかまえられてしまった

「朱那?…何をしているんだ?」

「!?…うわぁぁ!!だだだ大地!」


大地という名の少年は、花びらを朱那という少女に渡した。

「この花びらがどうかしたのか?」



昼休み。

学校の裏庭の伝統である桜の木。
誰もいない中で、1人眺めていたところを大地が追ってきたのだ。


花びらを受け取った朱那は、少し戸惑いながら・・・・・

静かに目を閉じ、言った。

「…この、花びらは…私に、何か語りかけているような気がするの」

(おかしいって思われちゃうかな…)



「・・・・・・・・・・・・この、桜の木の花びらか?」



「そうよ。おかしいかもしれないけれど、何か…大事なことを…」



「・・・・・・・」

…無言。



だが大地の場合、この無言は黙って話を聞いてくれるという意味のサインだった。

大地は、普段は口数が少ないが、言う時ははっきり言う人なのだ。



「私って、小さい頃の記憶がないでしょう?いつも…思い出そうとすると、何かに邪魔されてしまう…その、ヒントをくれるような気がして…」



(でも、どうしても思いだせない…私の記憶は、一体どんなものなんだろう…)



しばらく・・・・風の音だけがその場に流れた。





長い沈黙の後、大地はやっと口を開いた。



「そんなに…昔の記憶を思い出したいのか?」





少し、驚いた。いつも黙って人の話を聞くのだが…

めずらしく質問してきた。



「…そう…ね。昔のことはもちろん気になるし…それに…」





朱那は、軽くうつむき苦笑いをしながら言った。



「どうして、本当の両親は私を捨てたんだろう…って…」





瞬間、大地の顔色が変わった・・・・・・・ような気がした。

朱那は気のせいだろうと思い、そのまま続けた。





「今の両親はもちろん好きよ?・・・・・よくしてくれるし、とても優しい…大地も、そう思うでしょう?」



「・・・・・あぁ・・・」



朱那は、今の両親の家の前に捨てられていたのだという。

大地も、朱那が捨てられる半年ほど前に…同じ場所に捨てられていたらしいのだ。





2人の子を養子としてひきとり大変なはずなのに、ここまで育ててくれたのだ。

否。本当のところ、大地は「養子」ではない。

その話を断ったそうだ。

今は、居候として一緒に住んでいる。



そして、大地には記憶がある。

両親のことも覚えているらしい。



それは後になって知ったことだ。

朱那は、小さい頃までは大地も自分と同じで、何も覚えていないのだと思っていた。





そのことを気にして、大地の前では元の両親の話は避けていたのだが、ある日、口が滑ってしまった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

小さい頃・・・・・



「私の本当のお母さんとお父さんは、どんな人だったのかなぁ…」



「・・・・・・・」



「・・・・・・!!!」



沈黙の意味は分からなかったが、大地も同じなのだ。と気づくと涙が出そうになった。



「ぁ・・・ごめ・・・・ごめんね!・・・つらいのは、大地も同じはずなのに・・・・」



「・・・・・・俺は・・・・両親の記憶は・・・・ある」



「えっ・・・あるの!?私と同じで、記憶がなくなっちゃったかと思った」



ホッとした。記憶がないよりはずっといい・・・・両親のことを覚えているのなら、良かった。

それも本音ではある。

だが同時に、【同じ】なのだと思っていたためか少し羨ましく、そして置いていかれた感じがして、寂しくもなった。



「・・・朱那・・・・俺に気を使って、話をしなかったんだろう?」



・・・一瞬、何のことか分からなかった。



「両親の・・・・話・・・別に、俺は両親について何も思っていない。から・・・大丈夫だ」



「・・・・・・・つらく・・・ないの?」



あの時の私は、何故こうもデリカシーのない人間だったのだろう。

だが、そう聞けたのは、大地の目には…両親への感情がまるで見えなかったからだ。



「つらいとか・・・もう・・・よく分からないんだ。」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



それからは、たまにふと口に出したりする。

誰かに聞いてほしい時の相談役は、いつも大地だ。





今の両親達に拾われてから大地に会った時も、初対面のはずなのだが、打ち解けやすかった。大地の傍にいると、安心していられたのだ。







————キーンコーンカーンコーン





そこで、始業の鐘が鳴った。



「そろそろ行こうか…大地。聞いてくれてありがとう…」



「あぁ・・・・・・朱那、そういえば朝、母さんに夕飯の材料買ってきてくれって頼まれた。」



「えっ?そうなの?メモかなんか貰ってきた?」



「ああ、これだ・・・・・」



メモを渡すと、そこにはかなりの量の材料がかかれていた。



「あー・・・これは1人では無理だね・・・分かった!!放課後買い物に行こうか!」



「そうだな・・・・」





—————ズキン——



「ぅ・・・っ・・・」



「朱那?どうか・・・したのか?・・・・・・・」





(頭が・・・痛い・・・・・・・・・記憶を思い出そうとすると、邪魔される時の…あの痛み・・・・)



だが、いつもとは違い、すぐに治まったため、ただの頭痛なのかなと思い、気にしないことにした。



「ううん、何でもない!行こうか!授業に遅刻しちゃう!」



・・・・・・・危険を知らせるサインとも呼べるその頭痛とは知らず、これから起こる事を分かるはずもなく、朱那は教室に向かったのだった———









——————————————————



その頃、屋上から2人の様子を見ていた者がいた。



「ふふっ!見ぃつけた♪」



首に、小さいスペードのマークがある少女だった。



「へぇ〜・・・記憶ないんだぁ!でも、力は失っていないようね♪少し眺めていただけなのに、あの察知能力。あれでまた無自覚なのがすごいなぁ・・・・」





にやりと笑う美少女。



「それにしてもダイチ君・・・・あ〜んなにカッコよくなっちゃって♪健気にあの女を守っているのねぇ☆本当・・・・いい子・・・・でも、それも今日で終わりよ。ふふっ!王女様に知らせなくっちゃ♪」



不気味なほどに…そして美しく微笑んだ美少女は、その場から消えた。



—1枚の…黒い羽を残して…