ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 鬼紅葉 ( No.2 )
- 日時: 2010/10/19 16:30
- 名前: るりぃ ◆wh4261y8c6 (ID: j4gPq5EO)
弐章
朝起きて、近くの川に水を汲みにいった。
そうしたら、川原に人間が流れ着いていた。
恐る恐る近付いて見ると、まだ、息があるみたいだった。
その人は蒼と黒の忍装束を着て。
漆黒の闇のような髪をしていて。
怪我をしてるみたいだった。
『見なかったことにしよう。』
最初に脳裏に浮かんだのは、その言葉。
だけど、私が放っておいたら、きっとこのヒトは死ぬ。
このあたりは私以外の人間なんて住んでいないし。
滅多に人も通らない。
ほんの気紛れだった。
そうとしか思えない。
私が、ヒトを救うなんて。
忍は、家に連れ帰る事にした。
重かったけど、なんとか死なせずに家まで運べた。
怪我の程度は酷くて。
意識もないみたい。
きっと、敵にやられて川にでも落ちたんだろう。
家においていた薬や包帯で応急処置を済ませる。
医者に診せないと駄目かしら…。
医者に診せるのは、やめた。
理由は簡単だ。
このヒトのために、私が会いたくもない医者に会う理由がない。
とりあえずそれなりに手当てできたし。
どうにもならなくなったら、医者を呼んだって遅くはないし。
大体、このヒトが此処にいる事自体が間違いだ。
どうにもならなかったら、棄てればいいんだ。
どうせ、死にかけているんだから。
怪我と、川の水で冷えたせいだろうか、熱が下がらない。
どうせすることもないし。
側にいて、額に当てる手ぬぐいを何度も取り替えてあげた。
このヒトはいい。
物を言わない。
私を見つめない。
このままずっと、息をし続けるだけのヒトであればいいのに。
そうすれば私も安心して、人間に触れられるのに。
名前は、なんていうんだろう。
忍の隣に寝そべりながらそんな事を考える。
格好からして、戦用の忍だ。
武器も持っていたし。
だから余計、身分を証明するものなんて持っていない。
同い年、くらいかな。
寝息を聞いていたら、私も眠くなったので昼寝することにした。
忍は、顔も端整だし。
物言わぬ、人形のようで。
少しだけ、ヒトを飼うのが楽しくなってきた。
ねぇ、今度名前をつけてあげる。
だから、目覚めないでね。
本格的に、このヒトを飼う事に決めた。
目覚めたら…その時はわからないけど。
今のこのヒトはとても気に入っているから。
このヒトは、私が居なければ死んでしまうのだ。
つまりは、私がこのヒトの全てを掌握しているという事になる。
支配、しているということになる。
ヒトを支配する。
それがこれほどに素晴らしいとは思わなかった。
普通のヒトなら、私が支配するなんて到底出来ないけれど。
このヒトは違う。
怪我人で、物も言わぬ。
私より弱者のこのヒト。
それならば私にも支配できる。
いや、現時点において、私しかこのヒトを支配できないんだ。
それが、たまらなく楽しかった。
奥の部屋から、今はもう居ない父親の着物を引っ張り出して、着替えさせてあげた。
傷を出来るだけ刺激しないように。
そっと。
最近負ったものとは違う、古傷もこのヒトには刻まれていた。
どんな風にして負ったのだろう。
痛かったのだろうか。
そんな事を考えながら、指先で傷跡をなぞった。
本当は、そんな事どうでもいい。
このヒトの声なんて聞きたくない。
目も見たくない。
ずっと、私より弱者でいて。
私の支配できる、ヒトでいて。