ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 鬼紅葉 ( No.4 )
日時: 2010/10/24 09:18
名前: るりぃ ◆wh4261y8c6 (ID: M6A02lhT)

家に帰っても、ヒトが目覚めたという現実は変わらなかった。
恐る恐る様子を伺う私に、ヒトは薄く笑いかけて。
ヒトが動くたびに、恐ろしくて。
心が悲鳴を上げた。

「そんなに怖がるな。…俺を助けてくれたのは、お前自身だろう?」

私は首を強く横に振った。
否定、じゃない。
間違った、という意味で。

「参ったな。…怖がる事ないだろう? 俺はまだお前の世話なしじゃ動けない。武器なら、お前に全部取り上げられた。敵意もない。何がそんなに怖いんだ?」

「…生きているから…。」

「え?」

「生きているから怖いッ!」


金切り声で、叫んだ。
ヒトは少し目を丸くしてから、困ったように笑う。


「矛盾、してるね。」

「何故目覚めたの…。目覚めなくてよかったのに…。お人形でいてくれればよかったのに…。」


呟き、震える私を構うのをヒトは諦めたのか、少し笑って目を閉じた。
腕に触れて、安らいだ時の事を思い出して、私は部屋の隅で泣いた。
もう、あの安らぎはどこにもない。
どこを探しても、ない。
ヒトが再び、眠りにつかない限り。

「ああ、忘れていた。」

急に発した声に私が飛び上がると、ヒトはくすくすと笑った。

「俺の名前は翔。お前は?」

「……。」

「名前くらい教えてくれ。飼い主。」

「飼い主…。」

その言葉に反応すると、翔は体が痛むのかぎこちなく腕を動かし、私に差し伸べる。

「残念ながら、今の俺はお前なしじゃ生きられない。お前に飼われない限り、な。」

「……翔……。」

「名前、教えてくれるか?」

震える指先で、掠る程度に触れた指先は。
温かかった。

「……鬼紅。」

私が名前を言うと、翔は私に優しく微笑んだ。

「今の俺の飼い主として、よろしく頼むぞ。」

翔は、私なしでは生きられないんだ。
怪我人で、私より弱者の翔。
現時点において私しか翔を支配できない。
そう考えると、私はうれしくなって、少しだけ、笑った。