ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 鬼紅葉 ( No.9 )
- 日時: 2010/12/01 15:13
- 名前: 桜音ルリ ◆sakura.bdc (ID: xXJv2SqN)
- 参照: http://www.youtube.com/watch?v
五章
昨夜の、出来事だった。
草木も寝静まる真夜中。
何かの気配に起きると、隣に寝ていた翔が「起きあがるな。」とでも言うように肩に手を当てた。
木戸の向こうに、人の気配がする。
神経を集中させて、じっとしていると、翔が急に私の体を抱き寄せる。
次の瞬間、背中の方から何か鋭い物が床に刺さる音がした。
それを合図に、木戸や天井裏から人間が現れ、私たちを取り囲んだ。
明かりは月の放つものしかなくて、彼らの姿は見えないが、その声は町で聞いたものと同じだった。
「くれない忍隊の長、御堂 翔だな。」
「だったらどうするんだ?」
「その命、頂戴つかまつる。」
翔は、特に動じる様子もなく、ただ月明かりに微笑んで。
「この娘は見逃してもらえるか?」
そう言った。
敵は嘲り笑いを浮かべながらそれを了承して、私は思わず翔を見た。
「鬼紅、逃げた方がいい。」
よろりと立ち上がって、木戸から表へ出る。
しかし私は、すぐに引き返してきた。
木戸に近い所にいた男が悲鳴を上げる。
私の斧が腕を奪ったから。
それから私は、何の躊躇もなく斧を振るった。
誰にも、壊させない。
邪魔者は……殺す。
死体は、川へ棄てた。
谷底に落ちていく死体は、いつかを彷彿させるようで。
私はそれらを見送りながら、少し笑った。
夜中襲ってきた連中を、私はあっという間に斧で切り殺してしまっていた。
無我夢中で叫びながら、何度も、何度も同じ体に斧を振り下ろして。
気が付くと、私は翔に抱き止められていて、辺りは一面血の海だった。
「……もう死んでる……! もう十分だ!」
そう言って翔は、私を抱きしめていた。
私はそれをやんわり解いて、複雑な表情の彼を見上げる。
その瞳の、奥まで見るように、じっと見つめて。
まるで幼い少女のようにあどけなく、笑った。
「だめじゃない。翔。寝てなくちゃ。」
「鬼紅……」
「心配しなくても、大丈夫。散らかっちゃったね。一人で片付けられるから寝ていて? 怪我はまだ治りきってないんだから。」
翔を寝かせて、辺りに散らばる肉片を集めた。
もとが人間だとか、殺してしまったとか、そういったことは考えなかった。
ただ私は、たった一つのものを守りたかっただけだ。
「翔、ごみ、外に棄ててくるから。」
そう。ごみだ。
私と翔の間を裂こうとする者は、なんであろうと。
裂かれ、叩き潰され、棄てられる。
ごみなんだ。
だから、これでいい。
これでいい。