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ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 闇色のタキシード ( No.1 )
- 日時: 2010/10/25 18:48
- 名前: クロウ ◆vBcX/EH4b2 (ID: PlVnsLDl)
今日も変わらないな。人間界は。
私はそう思いながら、人間界を眺めていた。
私の名はディオニュソス。ギリシャのオリュンポス十二神の1人であり、葡萄酒の神だ。
雲の下に見える人間界は今日もにぎやかで、日が落ちた空は雲に覆われている。
月も、星も見えない空の下では、車のライトや家の窓から漏れる電気が見える。
空の上から見たら、その光はとても小さく、まるで黒い床に砂金をこぼしたような感じだ。
そんな夜の闇の中を速足で歩く人間達は、何かと忙しそうだ。
私はだんだん、この世界を見るのに飽きてきて、どうせなら、いつも見ないような国を見てみようと思い、違う国の方に目を移した。
そこで、ふと目に留まったのが、山奥にある葡萄の木だった。
その葡萄の木のそばには、一匹の子熊がいて、木の枝にぶら下がっている葡萄をじっと見つめていた。
———あれを、とりたいのだろうか?
だが、小熊はまだ木には登れないらしく、木の枝にぶらさがっている葡萄をじっと見つめているだけだ。
私はその小熊が、だんだん可哀そうに見えてきた。
まだ、木にも登れない小熊には、あの葡萄は取れないだろう。
他の手があるとしても、あの幼い小熊がいい案を思いつくとは思えない。
———仕方ない。
どうせ暇だったのだし、葡萄くらい、とってやるか。
私はそう思い、人間界に降りて行った。
幼い小熊に、葡萄を食べさせてやるために。
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