ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 闇色のタキシード ( No.12 )
- 日時: 2010/10/25 18:52
- 名前: クロウ ◆vBcX/EH4b2 (ID: PlVnsLDl)
さて、いつものように山に来たのはいいものの……。
今日は少し、早く来すぎたか。
とりあえず、木の下で座っているとしよう。
私と林檎は、いつもこの葡萄の木の下で会う。
最初に林檎と会ったのも、確かここだったな。と、懐かしいころのことを思い出す。
木が風に揺れる。私の体にも風が当たる。
風が少し冷たく感じられた。秋の風は冷たく、もう少し着こんでくればよかったと思いながら、パーカーのフードをかぶった。
風に揺れる髪を指に絡ませて遊びながら、ふぅ、と息をはく。
すると、冷たい風が止んだ。
「……あの、すみません。待ちました?」
顔を上げると、白いパーカーに白いマフラー。そして黒いスカートといった格好の林檎がいた。
ああ、やっぱり私もマフラーくらいは持ってきた方がよかったな。と思い、小さくため息をつく。
「べつに。今ちょうど来たところだ」
本当に、ついさっき来たからな。
どうやら、私が思っていたほど早かった、というわけでもなさそうだな。
私が答えると、林檎はにこにこと笑いながら、私の隣に座って足を延ばす。
私は葡萄の木の幹に置いている、ワインの入った籠を林檎に手渡す。
「林檎、お前、ワインが欲しいと言っていただろう? このワイン、いるか?」
「え? いいんですか? これ」
林檎が籠の中身を見て、そう確認してきた。
私はただ頷く。林檎はそれを見て、満面の笑みを浮かべ、何度も礼を言った。
しかし、自分が作ったものでここまで喜んでもらえると、こちらまで嬉しくなる。
ここの木の葡萄も、大粒で甘い。とても良いワインが作れた。
「……林檎」
「はい?」
「そのワインは、何に使うんだ? 料理か何かか?」
私の質問に対し、林檎は嬉しそうに答えた。
「父の誕生日のプレゼントと、料理につかうんです。父はワインが好きなので、とても喜ぶと思います!」
林檎がそう答える。私の2つの予想が、どちらも当たった。
父の誕生日に、か。
———そういえば、私も父の誕生日には、いつもパンやワインをプレゼントしていたような。
そのたびに父は喜んでくれたな。
林檎の父も、私の父のよう、喜ぶと良いが。
「本当に、ありがとうございます。ディオスさん」
林檎がそう言って、こちらを向き、微笑んだ。
私も微笑み返して、空を見上げた。
風が冷たく寒いはずなのに、何故か頬がほんのり温かかった。