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Re: 闇色のタキシード ( No.14 )
日時: 2010/10/26 21:04
名前: クロウ ◆vBcX/EH4b2 (ID: wlOs4aVY)

天界に戻ってから、自然とため息がもれた。
恋。なんて、愛しく、忌々しい感情。
愛しい。相手を思う気持ちと、幸せな時間が。
忌々しく、憎らしい。相手に変えられる心と、耐えがたい苦痛が。
今も、胸辺りが痛い。
細い糸できつく縛られたような感じがして、息苦しく、痛い。辛い。
こんな感情、くしゃくしゃに丸めて捨ててしまえればいいのに。

そう思いながら、こぶしを固く握りしめた。
嫌だ。こんな自分は、嫌いだ。
そう思いながら、体育座りになって、手で顔を覆った。
体が小刻みに震えて、どうしたらいいのか解らない。怖い、怖い、怖い。
解らない、でも、怖い。

「おい、どうしたんだ、ディオニュソス」

突然声をかけられ、顔を覆っていた手を離し、顔をあげる。
私のすぐ目の前には、アポロンがいた。
アポロンは私の反応に驚きながら、呟いた。

「これはまた、厄介なことになったな……」

アポロンの言葉を聞き、私はムッとした顔でアポロンを睨みつけた。
だが、今の私はとても弱弱しく見えるらしい。いつもは慌てて修正するが、今日は少しばかり困ったかを押して見せた。
その後、すぐにアポロンは私に先ほどの謝り、私の隣に座った。

「……何をしに来た」

震える声で、そう言った。
アポロンは目を丸くしながら、私の目を見た。

「ディオニュソス、最近元気がないようだが、どうしたんだ?」
「お前には関係がないだろう」
「いいや、あるな。お前は私の兄弟だ。それに、父も心配しているぞ」

アポロンがそう言って、心配そうに私を見た。
私は今の自分を見られたくなくて、目をふせた。

「お前、あの女と会ってから、ずっと悩んでいるようだが?」

アポロンがそう言い、私を見た。
アポロンの言う女とは、林檎のことだろう。
悩んでいる、か。確かにそうだな。あの女と会ってから、自分は悩まされてばっかりだな。
そう思うと、自分も、この感情も、馬鹿馬鹿しくて笑えてくる。
アポロンは心配そうに私の顔を覗きこんだ。

「私のことは気にしなくていい。本当に、気にしなくていいからな」

力のない笑みを浮かべて、アポロンにそう言った。
アポロンはまだ何か言おうとしていたが、諦めてくれたのか、無理をするな、と言って、歩いて行った。
アポロンの後ろ姿が見えなくなった後、私は空を見上げた。

ぽたり。

手に、一筋の雫が落ちてきた。
雨は、降っていない。透明な液体が頬をつたい、手にぽたぽたと落ちてきた。
痛い、痛い。胸が締め付けられる。心が壊れて、自分まで壊れてしまいそうで。怖くて、不安で、だが、この感情を手放せなくて。
この苦しみに、耐えられなくて。

その時、私は生まれて初めて、涙を流した。