ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 闇色のタキシード ( No.2 )
- 日時: 2010/10/25 18:53
- 名前: クロウ ◆vBcX/EH4b2 (ID: PlVnsLDl)
人間界に降り、葡萄の木の太い枝に着地すると、小熊は私のことを不思議そうに見ていた。
空から人が降ってくる。なんてことは、そうないだろうしな。
私はそう思いながら、木の枝の上を静かに歩く。
枝は私の重みで、揺れたりメキメキと音を立てたりする。
まぁ、この枝には葡萄の実がなっているし、木の枝が折れても葡萄の実は取れるだろう。
ちょうど葡萄の実が見えてきたところでしゃがみ、葡萄の実の茎を折る。
その葡萄の実を持って、私は枝から降り、地面に着地し、小熊の前に葡萄を置いた。
小熊は葡萄の臭いをかいでから、葡萄の実を口にくわえ、山奥へと消えて行った。
さて、あの小熊に葡萄をあげたし、これで目的は果たしたな。
そう思いながら、私は葡萄の木にもたれかかり、静かに目を閉じた。
耳に入ってくるのは、木々のざわめきと、虫達の鳴き声。
涼しい風が体に当たり、とても心地が良い。
「……あの」
澄んだ声が、私の耳に入る。
私が目を開けると、目の前には人間の女が立っていた。
肩まである黒い髪に、黒い目。服は、シンプルな白いワンピースを着ていた。
「あの、貴方、どうしてこんな時間にこんな山奥にいるんですか? 危ないですよ」
危ない、か。
人間にとっては危ないかもしれないが、私は動物にあっても、怖くもなんともない。
動物も人間も、父が作ったものなのだからな。
父が作ったものが、父の子である私を襲うわけがない。
「お前こそ、このような時間にこのような山奥にいて、大丈夫か? お前は女なのだから、このような時間に外を出歩かない方がいい」
私が女にそう注意すると、女はムッとした顔で私を見る。
大きなお世話だ、と言いたそうな顔だな。
私はため息をつきながら、続けた。
「先ほど、小熊の様なものを見かけた。もしかしたら、熊の親子と遭遇するかもしれんぞ? もし遭遇したら、お前はどうなる?」
私が女にそういうと、女は不安そうな顔をした。
この山に小熊がいるということは、親の熊もいるはずだ。
だとすると、この女が熊に襲われるという可能性もあるのだ。
私は立ち上がり、女の目を見て言う。
「夜も遅いし、私はもう帰るとする。お前も、早く帰るといい」
私がそういうと、女は暗い森の中を歩いて行く。
私は女とは反対方向の道を歩き、天界へ帰ることにした。
あの女、無事に帰れればいいがな。