ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- 空の真実 〜1〜 ( No.4 )
- 日時: 2010/10/06 18:09
- 名前: 紅薔薇 (ID: 4jdelmOD)
「あ、おはよ」
それだけいうと、すぐにレナはその翳った青灰色の目を、空に向けた。
いつも同じ、汚らしい灰色の空が何も変わっていないことは分かっていたが、俺はつられて空を見上げた。
羽が折れている貧弱なカラスが一羽、俺の瞳を横切ってゆく。視界の隅に、まるで死人のように突っ立っているのは、錆びついた電柱だった。ふいにレナが瞬きもせずに呟いた。
「アレクスは、青空って見たことある?」
「いいや」俺は答えた。
「そっか」つまらなそうにいうと、レナは階段の手すりによりかかった。
「私も見たこと無いな。
実際にね……。ちっちゃい頃に、一度だけ本で見たことがあったけど、もう何十年も前の本だったから、黄ばんでて、肝心の青色は分からなかったの」
「だから、その頃から私は無性に空に焦がれるようになったの。
夢も見たわ。もうこの世界には残っていないだろう真っ青な草原に一人立って、雲ひとつない青空に両手を広げているの。まるで、空を自分のものにしようとしていて…」
それから、深いため息をついた。
「きっとそれは前世の記憶だったのかもしれない。前世はきっと、私は幸せだったに違いないって、目が覚めて思ったわ」
そう呟くレナの瞳は、俺ではなく空想の青空を見ていた。
果てなく、続いていく美しい青。乾いた俺の心に、一瞬さわやかな風が吹いた気がした。
だがそれはすぐに暗黒に飲まれていった。
この厚い雲が千切れて、太陽がのぞく日がくるなんて、今の俺には想像もできなかった。
「で、俺とお前の使命ってなんなんだよ。あれからお前、何にも話そうとしないじゃん」
俺が横目でレナを見ると、いつになく深刻な横顔のレナがいた。
「……信じてくれないと思って…。言えなかったの。
でも、本当なの。この使命が果たせないと、みんな死んでしまう…」
驚愕している俺に、レナはゆっくりと振り向いた。
「この世界が荒廃してる理由は、実は文明の発達が原因じゃない。
世界支配をもくろむデス・テラという闇の組織が人の脳を壊すウイルスを発明して、それを排出したの。人類の命運はそのウイルスの排出で尽きたわ…。ウイルスはどんどんと人の脳を破壊していき、ついには核戦争を起こさせるまでになった……。人類が半減して、全ての秩序が乱される時代、今のこの「テラ」時代があの組織、デス・テラの黄金時代となったの…」
まるで夢見たいな話を、レナは語り始めた。
「だけど、デス・テラにとっての邪魔者は、まだ潜んでいたのよ」
それだけ言うと、レナは俺を見つめ、それから針金の突き出たボロいコンクリートの地面に目を落とした。