ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

空の真実 〜2〜 ( No.5 )
日時: 2010/10/06 20:59
名前: 紅薔薇 (ID: 4jdelmOD)

「それは、「フュール」と呼ばれる神々の血筋である人々…。
超人である彼らにウイルスは効果がなく、正義感が強い人々が多かったから、デス・テラの脅威に他ならなかったのよ。だから、デス・テラはフュールの征伐をうち出した。そして、何百人ものフュールが犠牲になり、今にいたっているの……」

「そして…私もその一人…」ためらいがちに言った彼女の目は、コンクリートの地面から、俺へと移っていっき、確信に満ちた表情でうつむいている俺を見つめた。

「あなたもなんでしょう?アレクス・シェーンブルン」


一瞬、世界の色が剥がれ落ちた気がした。

                 
           *


——人生の転機とは、突然訪れる。
静寂と、沈黙、そして闇を引き連れて。

人は、あまりに急な出来事に慌てふためき、素直に受け入れることができなくなることがある。

俺も、そうだ。

だが、俺がフュールである以上、それは受け入れなくてはならないのだ。
世界の破滅が、俺の選択にかかっているから…。

「アレクス。レナには全てきいた。
お前はこれからレナとともに、デス・テラの計画を阻止せねばならん、という使命だそうだな。おまえ自身はどう思っているのだ」

ティーンが、いつになく真剣な顔で、俺を鋭く見据えた。

レナは今ここにいない。理由は分からないが、きっと気をつかっていなくなったに違いない、と感じた。

「…わかりません。未だにレナの話が信じられないし、それに世界を救うことができる力が、俺に備わっているということも疑問に感じるんです。俺はただの平凡なフュールなんだと……」

俺がためらいがちに言うと、ティーンは微笑んだ。

「フュールに平凡や、非凡などいない。
神の力は全て一つの輪となり、この不安定な世界を支えているのだ。だが、その神々にですらもうこの世界は修復不可能になっている。それはこの老いぼれにも分かる。
ときたま、世界の弱い鼓動と、鋭い悲鳴を感じる時がある。もう、何もかもが手遅れなのだ。
人間という、身勝手な生き物がこの世界を廃し、腐らせている……」

鼓動と悲鳴。それは俺でも感じる。
何とかしなければ。そんなことは分かっているけども、こんな、汚くて、よどんでいて、荒廃した世界を助けなければいけない義務が、果たして俺にあるのだろうか。俺みたいな殺し屋や盗人の溢れるこの世界を、なぜ必死になって守らなければならないのだろう。