ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 椿原小学校探偵部、始動【第4話執筆中】 ( No.126 )
- 日時: 2010/12/09 21:35
- 名前: 星都 ◆U9Gr/x.8rg (ID: PWqPGq9p)
- 参照: http://www.kaki-kaki.com/bbs_m/view.html?556155
——青山佐那宅——
「…………」
広々としている割には必要最低限の家具しか置いていないリビング。そこに、大人が7人ほどしかめ面で座り込んでいる。その殺風景なリビングには似合わない——いや、ぴったりと言うべきか。その人物達は宅配ピザの制服や、電気工事の制服などを着た人たちが座っている。——が、鋭い目がただの人物とは言い難い。ぴりぴりとした空気を身に纏い、いらだたしく上下に動く膝がそれを証明している。
その中で、ただ1人。憔悴しきったような、疲れ切った顔をしている女性が居た。
——青山美和(あおやま みわ)。彼女が憔悴しきっているのは、今目の前で起こっている出来事を理解していないか。あるいは理解したために訪れた、悲しみのためか。
「……娘は…ま、まだなんですか?」
目つきの悪い男性達を前に、とても恐る恐るといった感じで問いかける。
その問いに答えたのは、頭のてっぺんが薄くなりかけた40代後半の男性。顔、少しぽっこりとしたお腹。そして、なによりも印象的なのは目だった。周りの男性達とは違う、とてもふんわりとした優しい目をしている。
「今私の部下達が調べていますよ。奥さん、落ち着いてください」
「…お、落ち着いてなんか居られませんっ!私1人では…ど、どうしようも……」
そう言うと、顔を両手で覆い床に泣き崩れた。それを近くにいた女性が抱き留める。
「警部」
「うむ。一城、後は頼んだ」
その男性は警部と呼ばれると、女性に目で合図した。おそらく休ませろ、と言っているのだろう。
女性—— 一城咲良 ——は美和の肩を抱くと隣の青山夫妻の寝室へと向かった。
「……まだ犯人からの連絡は無いのか」
「ありません。犯人どころか、電話は一本もありません。旦那さんからも連絡が無いようですし」
警部の近くに座っていたまだ20代後半の青年が答える。
——そう。今この状況。青山佐那誘拐事件を担当している、椿原署の刑事達は泊まり込みで張り込んでいるのだった。
ピンポーン…
「っ!?」
「佐那っ!?佐那なの!?」
「お、奥さん!落ち着いて」
電話が来ないことを良いことに、少し気を緩めようとした瞬間。
突如としてリビングに緊張が走った。寝室から出てきた美和を後ろから羽交い締めにすると、咲良はキッチン近くにあるモニターへと急ぐ。
「……はい」
『青山佐那さんのお宅ですか?私、佐那さんの友達の一城愛香です。休んでいたぶんのプリントを届けに来ました』
「あ、愛香!?」
『??』
インターフォン越しに聞こえる声は、自慢の愛娘愛香であった。
(き、聞き間違いじゃ無いわよね…?)
もう一度 モニターを見る。
——この無愛想な美少女は自分の娘だ。
そう確信すると、咲良は警部の方を見た。目で「どうすれば…」と語りかけている。
「いや、どうすればって言われても…」
警部は所帯を持っており、咲良の言えとは家族ぐるみのつきあいだ。
しばらく愛香には会っていないため、顔を見たいという気持ちもあるが不幸なことに現在は勤務中だ。
「……一城出てやりなさい」
「……分かりました」
渋々頷くと咲良は玄関へと向かった。