ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 飴玉、夢現 ( No.7 )
日時: 2010/10/14 20:09
名前: 御伽噺 (ID: 8hgpVngW)

                   *⌒Y⌒ 一夢 ⌒Y⌒*
                   夢は絶えず、現で堕ちる


「美羽、起きて下さい。学校遅れますよ。」
「…ヤダ。」

起きるのが嫌なのか、学校に遅れるのが嫌なのか、どちらか分からない返事をされる。
百発百中、起きるのが嫌なんだと思うけど。
カーテンを開けて朝日を浴びさせる。
俺は色が分からないから眩しくもないけど普通の人にとっては眩しいんだろうな、と思いながら今日二回目の言葉を言う。

「起きて下さい。」
「るー、眩しい、閉めて。」
「朝食も用意出来たので食べて下さい。」
「るー、私、無視するの?るー、先、行くの?」
「…美羽が寝るんでしたら、先に行かせて貰いますが。」
「むー…、じゃあ、起きる。」

むー…と言いながら起き上がる。
相変わらず中身は子供だ、と思いつつリビングへ向かう。
美羽の歩き方はとてとて、と聞こえてきそうなくらい軽そうな足取りだ。
美羽は大きな欠伸をしながら椅子に座る。
俺はさっき作ったホットケーキを美羽の目の前に置く。

「…よく毎朝そんなに甘い物を食べられますよね。」
「ホットケーキ、おいしいよ?」
「俺は和食派ですから…。」

梅の入ったおにぎりをほおばりながら返事をする。
時計の方に目をやるともう8:00.…といっても此処からは20分あれば着くのだが。
俺は着替えの為にリビングへを後にする。

「…るー…先、行かないでね。」
「行きませんて。」

何回もこの会話を繰り返した。
幼い頃に母親に置いて行かれ放題だったから家族意識強いんだよね、この子は。

「ホラ、早く着替えて来て下さい。」
「むー…、覗いちゃやだよー。」
「覗きませんよ。」
「それ、それで、失礼。」
「ちゃんと『て・に・は・を』とか言ってくれません?」
「むー…無理。」

即答だよ、この子。
何とか着替えも終わってのんびり登校タイム。
のんびりしてて大丈夫なのかって?
さっきの時間はのんびり行った時の目安であって、普通に行けばもっと早く着きますよ。
ただ、お菓子とか買うんで。

「るー、ガム、ちょーだい。」
「…何味がいいですか?」
「うー…、血の味?」
「さらっと怖い事言わないで下さい。そんな味ありませんから。」
「分かってる。…じゃ、苺。」

苺味のガムって…。
朝から甘い物ばかり食べるこの子のお腹の中が心配だよ。
与える俺も俺だけど。
俺は美羽にガムを差し出す。
美羽は何の躊躇もなくそれを口に入れた。

「…るー、これ、苺じゃなくてレモンなんだけど。」
「あれ?ピンク色な気がしたんですけど。」
「黄色…、別、いいけど。」

口をもぐもぐと懸命に動かす。
色が分からないから苺か分からないんだよね。
あ、パッケージに書いてある。しっかりと、『レモン』って。

ま、しゃーない、しゃーない。


人生だって、間違いばかりでしょ。