ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 蒼天のヘキレキっ! ( No.12 )
日時: 2010/12/12 01:51
名前: あぐ ◆/GIdjFJJRo (ID: gzQIXahG)

「諸君、良く集まってくれた」

並べられたパイプ椅子に座っている俺たちの前でこう言い放ったのは、作戦立案部の南雲教頭。
昔は陸上自衛隊の参謀大佐だったという話で、多少小うるさい所はあるが、それを除けばとても優秀な教師であると思う。

彼は正面にある電子ヒューボードに表示される作戦地図を指揮棒で挿しながら続けた。

「AM、ヒトヒトフタナナ(午前十一時二七分)。時醒ときさめ市南東部の入江地区において暴動が発生。参加者の殆どがスラム住民と確認されている。現在、暴徒たちは市の中心部に行進中だ。警察と機動隊が出ているが、彼らは規則上、民間人に対しては“発砲できない”——そこで我々の出番だ。入江地区の背後に面している海上から揚陸艇とブラックホーク(輸送ヘリ)で奇襲を仕掛け、首謀者を迅速に逮捕、もしくは殺害する————襲撃科と狙撃科、それに捜査科の生徒は奇襲部隊へ編成される。情報科は後方支援、車輌科は一部の生徒が揚陸艇とブラックホークの操縦手を担当する以外は、情報科とともにバックアップを行え…………以上! 質問はあるか?」

少しの間シーンと静まり返った後、俺の後ろの席の奴が手を挙げる。

「よし、質問は?」

質問した奴は静かに立ち上がった。

「詳しい部隊編成ですが、訓練通り四人一組のチーム制でしょうか? それとも二人一組のバディ制に?」

「その辺りは前線指揮を担当する教師が説明する手筈だったのだが……宜しい、今回は二人一組だ」

「理解しました。ありがとうございます」

質問をした生徒が立った時の様にまた静かに座るのを目で確認すると、南雲教頭は俺たち全員を見渡した。

「他に質問はあるか…………——ふむ、無い様だな。それでは各員、各学科ごとの集合地点へ急げ。解散!」

ザッという音と共に俺たちは一斉に立ち上がると、早足で作戦室から出て行く。
隣に座っていた早瀬が、説明が終わるのと同時に俺に話しかけてきた。

「教頭、バディ制って言ってたわよね?」

「ああ。確かにそう言ってたが……どうかし……!……」

「その様子だと……ヘタレのアンタも気づいたか——そうよ、今回決めたあのパートナーで二人一組を組むかもしれないってことよ!」

「おい! 冗談じゃないぞ! まさか俺とお前でこのミッションに挑むってのか!! ああ、クソッタレ。ツイてないぜ……!」

「それはこっちの台詞よ! ヘタレ!」

ギャーギャー言い合っている俺たちは背後から忍び寄る影に気づかなかった。
突然、俺の肩が凄まじい力でむんずと掴まれる。

「痛ッ!——誰だ、何しやが…………り……ますか」

肩を掴んだ奴を怒鳴ってやろうと振り向いた先にいたのは————

「…………」

無言で俺たちを睨み付ける南雲教頭だった……

「……あ、はは。南雲教頭」

「きゅう……」

青い顔をしながら縮こまっている俺たちに、教頭はその厳つい顔をずいっと寄せた。

「仲が良いのは結構。だが……現在任務中。OK?」

「「お、OK!」」

「ならお前らは今すぐにゴー・ミッション!!」

「「い、いえっさー!」」

俺たちは凄まじい勢いで脚を動かし、その場から逃走した。


*  *


あの後、俺たちは捜査科の集合場所に急行すると、担当の教師から詳細な作戦説明と編成を受けた。
そして案の定、編成の過程で俺と早瀬は二人一組とされてしまったのだった。嗚呼……


現在、俺はロッカールームで強襲作戦用の装備を着用している最中だ——
背中部分に白字でUSNI(国連特別捜査官)と描かれている黒色のボディーアーマーを装着し、アーマーと同じ色のハラクラバ(目だし帽)をつけ、その上から黒の防弾ヘルメットを被る。
そうしてロッカーの扉内に設置されている細長い全身鏡に自分を写した。

まさしく、ザ・特殊部隊と云った格好だ。アメリカのSWATみたいな……というかまんまじゃないか?

隣で装備を装着している奴なんかは、その上にまた防弾サングラスを付けている——
俺が見ているの気づくと、そいつは左手でサムズアップしてきた。

とりあえず右手で俺も返す。グッ。

うん、小さな友情が芽生えた気がするな。

そのまま何となく一緒にロッカールームを出て、目的地の途中——つまりはお互いがどちらも目標にたどり着くために1mも損をしない場所——まで歩くと、軽く手を振って別れた。
聞いた話によるとどうやらあっちは揚陸艇による上陸作戦になったらしい。

俺は急いで離れていくソイツの後姿を見ながら、第二ヘリポートに行く為に直行エレベーターに乗る。
一緒に乗り組む奴らも数人いて、こいつらは俺と同じ第二ヘリポート組みだと分かった。

————しばらくすると、エレベーターの操作盤にある光が第二ヘリポートの所で(いやそれしか目的地は無いが)止まり、チンという軽快な音を立てる。
眼前の扉が、開かれた。


……まず感じたのは暴風。叩きつけてくるような風だった。足を動かすのが辛い。バタバタという僅かな風声と混じってこれまた大きなヘリの爆音が聞こえてくる。
俺は目を何とか開けると、元は米軍の軍用ヘリコプターであるUH-60 ブラックホークがその体躯を休めているのが、少し先のポートに見えた。

訳も無く身震いが襲ってくる。一つ、深呼吸をしよう……スーハー、スーハ—……

よし。俺はずんずんとその黒塗りのヘリコプターに向かって足を進めた。
不意に、ヘリの中からひょいっと顔を出した奴がいた、ヘルメットは取っていて、その艶やかな黒髪が風に流れて宙を舞う。
早瀬だ。奴は俺の方を一睨みすると、すぐにその表情を驚きに変える。俺はそれに構わずヘリの取っ手を掴むと、中に入り込んだ。

すぐにヘリ内の所定座席に座った俺に、早瀬ぼけーとした目を向けると、ポツリと漏らす。

「……アンタ、真面目になればカッコ……ハッ!?」

その言葉は自分でも無意識に放ったものらしかった。全て言い終える前に奴は口を両手で塞ぐ。
ああ……良く言われることだ。“アイツ”も、そう同じことを漏らしていたな。「仕事モードに入った君は素敵に見える」ってね。
だが任務中はどうもそういうことを言われてもピンとこない。


俺と同じエレベーターで来た奴がどんどんヘリに入ってくる。そして早瀬もまだ少し顔を赤くしたまま、それに紛れる様にして、座席に座った。


ヘルメットに白い横線が三本引かれている生徒が指示を出した。三年生だ。恐らく隊長だろう。

「パイロット! 全員搭乗完了した! 出せ!!」

「OK! ブラボーリーダー!!」

元々廻っていたヘリの回転翼が、更にウンウンという音を出しながら回転しはじめる。

これだ、この緊張感……俺は人知れず笑いで口を歪めていた……