ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 蒼天のヘキレキっ! ( No.6 )
日時: 2010/10/27 20:19
名前: Agu (ID: gzQIXahG)


俺は早瀬に連行されて、演習場にやってきた。

ここでは訓練や模擬戦闘が実施されており、襲撃科の連中や、純粋に戦闘訓練がしたい奴に良く利用されている。
恐らくここに連れてきた以上、早瀬が言う勝負とは“模擬戦闘”のことだろう。


クソッタレ、今日は本当にツイてないぜ……


専用のロッカールームで、攻撃があたって致命傷になるのを防ぐ為の、重量感がある野戦用ボディーアーマーを着込むと、その後、物々しいヘルメットを被った。

そうして訓練用の特殊ライフルを両手に持つ。



準備完了だ。



俺はさっそく戦闘フィールドに出て、周りを見渡した。

……中々の広さだ。聞く所によると、敷地は東京ドームを三個重ね合わせたものよりも大きいらしい。
少し遠くには廃墟と化した建物や人工的に作られた丘、草原などがある。

全体的に開けている地形だ、良く見れば良い具合の狙撃地点もあり、スナイパーには絶好の交戦ポイントだろう。


さて、俺は勝負するはずの“相手”に焦点を合わす。


多少、離れた地点に早瀬はいる。俺と同じ様なボディーアーマーを着用して、両手に藍色の布に包まれた“長物”を抱えていた。
その様は直立不動、まるでかの閻魔大王のように堂々と佇んでいる。


やる気は満々のようだな……


俺達はお互いに視線を交えた。相手の表情からは何も読み取れない。





そして、試合開始を告げるサイレンが鳴り響く———




先制を決めるべく、俺はバックステップで後退しながらも、ライフルを連射する。
放たれたペイント弾、早瀬はスタントマン顔負けのアクロバティックで、それをひらりと避けた。


まだ、予想内だ。


俺は近くにあった障害物に身を隠すと、反射的にまた身を乗り出す。
そうして立っている早瀬に照準をセットし、引き金を引いた!

ババンッという鋭い銃声とともに、実弾ほどではないが確かな反動が伝わってくる。

ペイント弾は吸い込まれるようにして早瀬に向かっていったが、奴は上手い具合にその場に伏せて難を逃れた。


俺はそのまま引き金を引き続ける———襲来するペイント弾は、伏せている早瀬の周りを赤く汚しつくすだけで当たりはしない……

一旦、障害物に身を戻す。



何度も身を乗り出して攻撃したが、早瀬からの反撃は皆無だった。
少なくとも遠距離、中距離ともに対応できる武器ではない……

対応していたならサッサと反撃しているはずだ。もちろん手の内を晒したくないという可能性もあるにはあるが……



まだ、ほんの少ししか早瀬のことを知らない、が、アイツは少なくとも冷静に、理性的に判断するタイプではないだろう。

屋上の一件からでもそれは伺いしれる。



つまりは可能性として高いのは前者———反撃したくても反撃できないということだ。



そうとなれば、話は早い。
早瀬とは常に開けた地形で勝負を挑み、狙撃、撤退を繰り返す。一撃離脱戦法、ヒット・アンド・アウェイ。



俺は数秒の内に脳をフル回転させると、しゃがみ込み、片目をそっと障害物の端から出した。



早瀬は伏せながら、着実に進んで来ているようだ……どうやら多少の分別は付くらしいな。


たまにこちらに向かって疾走してくる奴がいるが、そんなのはただのアクション映画を見過ぎのアホとしか言えない。
たとえ、ジクザグに走ってこようが、兎のように跳ねてこようが、訓練されたライフル使いなら一掃射でお終いにできる。


こういう野戦での基本は「プローン(伏せ)からラッシング(突進)」
素早く立ち上がり、そして伏せる。移動中は走り、低姿勢を保ち、常に遮蔽物を利用することを頭に入れる。


だが早瀬にはこちらとの中間にその遮蔽物が無い。その上、武器は接近戦用。援護してくれる味方もいない。


地形的にも開けている——射程距離が長いライフルを使用している俺には、このうえなく有利だ。



どうやらこの勝負……お前に相当分が悪いようだぜ、早瀬 渚?




俺は腰だめにライフルを構えると、横に跳ねた!
見えるのは、今まさにこちらに「プローン(伏せ)からラッシング(突進)」のラッシングを行おうと、膝立ち状態の早瀬。


躊躇うものか———俺は引き金を容赦なく引く!


ペイント弾が銃身から連射され、動こうにも動けない早瀬に命中する———はずだった。


不意に、早瀬の前方に何か青を深めたような、そんな色調の物が現れる。
仄かな風の流れ、翻るそれは——そう、“長物”を包んでいた布だ!それを掴む小さな白い手……
ペイント弾は全弾その布に当たり、早瀬にはヒットしなかった。


そうしてその白い手によって布が取り払われる———出てきたのは美しい光沢を持つ刃……
刀身が人工的な光に照らされ、さながら幻想的でもあるそれは、一般的には“太刀”と分類されるもの——


その光景に見入っている俺に、早瀬は挑発的な表情を浮かべる。


「ヘタレ!——認めてあげるわ、アンタは強い。でも———私の方がもっと強い!」


ッ……上等だぜ、早瀬。そこまで舐めてかかられちゃあ、こっちとしても黙れない。
俺の実力は全て“アイツ”との特訓によって得たものだ———それがこんなお遊びで計れるものか。

俺は自然と“アイツ”が良く口にしていた一節を怒鳴り返していた。


「大した度胸だ、身の程知らず!——Io fracasso la fiducia!!(その自信を、打ち砕いてやる)」