ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 蒼天のヘキレキっ! ( No.9 )
- 日時: 2010/11/20 00:34
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: pD1ETejM)
(なかなかやるわね……)
早瀬は本気でそう思っていた。
これは才能でどうにかというものではなく、敵——新実 陽は手馴れていた。
だが、俄然負ける気などない。しかし、不利なのは百も承知であった。
「……私をなめたらどうなるか、わからせてやるわっ!」
にやりと口を歪ませ、優雅に笑った後、太刀を片手で握り締める。
そしてもう片方の手には——松ぼっくりのようなもの。
それは世にいう、手榴弾というものだった。
一向に出てこない。
先ほど、太刀を抜き去ったと後、確実に銃で狙いを定めた。
だが、それより速く、早瀬は傍にあった分厚い壁に隠れた。
「いつまでそうしているつもりだ……?」
自分が有利だという絶対的条件につい口元が歪み、笑い顔になってしまう。
それもそのはず。実際攻撃しているのは自分ばかりなのだ。
向こうは見たところ太刀ぐらいしか装備がない。
(接近しないと攻撃を当てられないものを戦場の相棒にしたのが間違いだったな)
そしてあることを思いつく。
相手が今何をしているか知らないが、壁際にいるということは確かだ。
今も堂々と姿を晒して見守っているが、左右どちらに移動したとしても、蜂の巣になることは間違いなし。
——射撃ならば絶対の自信がある。
なので、挑発してみることにした。
このまま無為に時間を費やしても意味はないからだ。
隠れているであろう壁際付近に向けて銃を放つ。そしてプライドの高いであろう少女に言い放つ。
「どうした? 防戦一方じゃないか。さっきまでの威勢はどこにいった?」
相手は完全に油断している。
これも、作戦の内だった。
絶対的有利の立場。それもこちらには太刀ぐらいの接近武器しか持っていないと見ている。
——勝機は十分。
相手が行動に出た時が、チャンスだ。
「しょうがない……」
怯えているのか何をしているのかが気になった陽は、少しずつ近寄っていく。
その砂を踏む足跡を聞いた時、早瀬は行動に出た。
「まだまだ、甘いわね! ヘタレ!」
壁際から堂々とした声が聞こえたかと思うと、何かが飛んできた。
それは、手榴弾。
「なっ!」
油断していた陽は慌てて後ろに飛び退く。
大きな爆撃音が鳴る。そして砂埃がものすごい勢いで視界を塞ぐ。
「手榴弾持ってたのか……!?」
頭を抱え、寝転んだ状態の陽は慌てて起き上がる。
——しかし、それは遅かった。
鋭く光る何かが砂埃の中、見えた。
見えたとしても、何にしても視界が奪われてどこに撃てばいいか分からない。
たった一度見えた光を太刀の光だと見て、そこに銃を放った。
「でやぁあああっ!!」
高い女の子の叫び声が聞こえたと思ったのと、砂埃の中からいきなり早瀬が出てくる。
それも、太刀を振り構えた状態で。
銃弾が、早瀬に当たる直前、それを
早瀬は、太刀でぶった斬った。
気付いた時には、既に自分の目の前には刃先が突きつけられていた。
「う……」
陽は思わず、腰を落とす。
そして砂埃がやっと消える。そうして出てきたのは、早瀬が悠然とした顔で太刀をつきつけている姿だった
「銃弾を……斬った?」
目の前で起きたことに全く対応しきれていない陽。
——太刀で銃弾を斬る?アニメか漫画じゃあるまいし
だが、そんなことがこの少女は砂埃であまり見えなかったが、やり遂げたのだ。
銃弾に追いつくということすら、そもそも無茶な話のはず。
「こんぐらい朝飯前よ」
不敵な笑みを浮かべる早瀬。
砂埃の影響か、体中砂だらけだった。
そして、続けて陽へと言った。
「やっぱりヘタレはヘタレねっ!」
敵わなかった。この少女の度胸、そして何よりその真っ直ぐな気持ちが
あまりにも、"アイツ"に似ていたから。
「……参ったよ。油断しすぎた」
素直に負けを認める。
すると、早瀬は陽のその言葉に鼻で笑った後
「アンタもなかなかやるじゃない。ま、でも私にはまだまだ敵わないけどね」
とはいっても、陽がもし油断せずにいたら負けていただろう。
——言い返してくるんならきなさいよ。
早瀬はそう思っていたが、その予想は実に的外れで、それどころか陽は笑っていた。
「そうだな。なかなかやるじゃないか」
陽は早瀬を褒め称えた。
その意外な行動に何故だか顔が赤くなる。自分の思い違いという部分が恥ずかしかったのだろう。
「な、何いって——」
その時だった。
サイレンのような音が鳴り響いたと思いきや、放送が事態を告げる。
『緊急事態発生、緊急事態発生。ただちに各要員たちは大広間へと集合せよ。繰り返す——』
「何があったのかしら……?」
早瀬が最初に声をあげる。
緊急事態。それが意味することは、言い切れないが敵が近くにきているかもしれないという危険性があった
「早瀬、急ごう!」
「勝手に名前で呼ぶなっ!」
「じゃあどうやって呼べばいいんだよ……」
と、苗字呼びでも怒られることに呆れながらも二人は大広間へと向かった。
それが、まさか……一戦場へといきなりほっぽり出されることになるとは、な。