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Re: そこで勝手に死んでろ ( No.2 )
日時: 2010/10/19 18:23
名前: 月兎 (ID: dD1ACbVH)

第一章 月を詠むモノ


歓声が鳴り止まない。
大勢の人間の声と拍手、その人間の円の中央に一人の女が居た。
華やかなドレスの様な服を身に纏い、その上に歪な甲冑を着けている。

女は仁王立ちをし、腕を高らかと天に向かい突き出した。
突き出された腕には、女の格好に似合わぬモノが握られている。


刀。銀色に光る刀身が紅に変色している。


女の前方には最早景色の一部と化した物体。
真新しい色合いの何かの海が出来、人と呼ぶことはもう無い、いや。出来ないであろう血肉の塊現る。

積み重なった死体の搭に女が目線を落とす。


「ああ、脆い!なんて脆いの」


上品、いや下品に笑う。

女の声がその場に響き渡ると歓声が鳴り止み、一つの人間味の有る声が嗚咽のように何処からともなく聞こえる。


「あ、あ、あああ」


耳に入った声の主を探すように女は辺りを見回し、そして何とも不気味に微笑んだ。


「あら、ここにもまだ獲物が・・・」


貴方、可哀想に。
そう続ける女。
言葉と何一つ噛み合わない行動、女は微笑みを崩さぬまま声の主で有る男の元へ刀を向けて歩みだした。


「く、来るな、来るな来るな!!」


男は腰を引きずりながら女から身を遠ざけるように後退する。

だが女の足は止まらない。


「大丈夫よ、今すぐ私が彼等と同じにしてあげるわ」


そして。逃げ場の無くなった男は恐怖に顔をひきつらせ、涙目と言う羞恥を曝し最期を迎えるのだった。


「さようなら」 


女は握っていた刀で男を刺す。
死体の搭はまた一つ天に向かって近づいた。


「うがぁぁああああ!!!!!」


女はそして肩を降ろし、返り血を自らの舌で舐めとると言う。


「今宵は私の舞台、お楽しみいただけたかしら?」


歓声が女に降り注ぐ。


「貴方と出会えてよかったわ、詔」


女は小さく呟いて、歓声に答える。

そして刀は、その光景を凝視し、ただただ無表情でいることしかできなかった。


女、フローランス・カトリーナは刀を手に其処から次の獲物を探しに闇夜に足取りを進めた。