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Re: そこで勝手に死んでろ ( No.3 )
日時: 2010/10/24 10:48
名前: 月兎 (ID: dD1ACbVH)

第一話 そこで勝手に探してろ


満月。

人々が街から姿を消した。



「鵺、どうなってんだ此処は」

寂れた街、人が今でもすんでいるという痕跡が残っているのに関わらず、人が忽然と姿を消していた。

「さぁ」
素っ気ない返事が返ってくる。
街の中央である広場へやってきた男女は、この街を見て呆然と立ち尽くしていた。

鵺と呼ばれた少年は辺りを見渡し、それからベンチに腰をかける。
「分かってたら、来ないでしょーが」
隣に続けて腰を下ろした少女が呆れたように言った。

「だよなぁ」
溜息をついて少年、月詠 枢は歩き出した。

無表情でそれを眺めていた神無月 鵺は隣で大きな欠伸をする十六夜 暦に一度目を向けてから、
枢に向き直ってめんどくさそうに聞いた。
「何処行く」

「人探してくる!」
それから枢は駆け足で小さな小道へ進んでいく。


それについて行く気は全くないのか二人は座ったままだった。

「人なんているのか」
「さぁ?探したらいるんじゃないかな、一人ぐらい」


その言葉に鵺は空を見上げてから自分以外に聞こえないような小さな声で呟いた。
『満月か』

『全員、逃げたか』




「本当に、誰もいないな」
枢は目線をいろいろな所に移しながら早歩きで住民を捜索していた。

洗濯物のかかった家、花が活き活きと咲く花壇、餌の入ったままの犬の餌入れ。
全て、本当に少し前まで使われていた風景。

すると突然
『うにゃっ』

猫のような鳴き声が耳に入ってくる。
動物一匹すらいなかった為か枢はその声の主を必死に探した。
「猫?」

だが、それは猫では無かった。
『人だ…』
小さな女の子が茂みで隠れていた、らしく草木の前で転がっている。
人だ、とあちらも驚いている様子だ。

「おい!」
枢は呼ぶ。逃げると思ったのか強く。

逆効果だったか少女は肩を震わせ、硬直した。
「君!」
『あ、はいっ!』

「この街の人はどこ行ったんだ?」
枢の言葉に少女は立ち上がり、小さな声で言った。




『皆、逃げたよ。

       今日満月だもん』

少女は当たり前に言って、枢は何処か納得した顔で声を漏らした。

「ああ、そうか」

満月の宴。