ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 偽りの中の輪舞曲 ( No.11 )
日時: 2010/11/12 16:21
名前: 遮犬 (ID: pD1ETejM)

——むかし、むかし。あるところに活発な一人のお嬢様がいました。
そのお嬢様はいつも元気で、どんなに困った人でも助けるような素晴らしい優しき心も持っていました。


ですが、そのお嬢様には、秘密があったのです。


お嬢様の住んでいる国では、殺人事件が多発しておりました。
それも、バラバラに体を切断するという、国民全体を脅かすほどの事件です。


そう、お嬢様はその事件の真犯人なのです。


夜な夜な外に出かけては、その細身の美しい体のどこから取り出したのか、大きな刃物で——


そして、お嬢様はそのものをバラバラに斬り殺した後に決まって言うのです。


「足りない…まだ…足りない…!」と。


それが何の意味を示すかもわからず、その言葉を言った後に、必ず笑うのです。狂ったかのように。

そして、綺麗な澄んだ青い瞳をお嬢様は持っていたというのに、その瞳の色が真っ赤に染められて
まさに、鬼のような存在といえるものだったそうです。


のちに鬼人事件といわれた事件の解決はお嬢様の謎の自殺ということで幕を閉じたのです。



「——この物語、明らかにおかしいね」

殺風景な木のテーブルの上に置かれたクッキーを手に取り、食べながら少年は言った。

「…どこが?」

目の前にいる少女は両手で広げてある本を閉じながら少年に首を傾げて問う。
随分と周りには物が置かれ、お世辞でも広いとはいえない。
明かりは、上におかれているランプのみで照らされているため、少し薄暗い。
窓の外は既に夜で風が冷たく、窓を叩いていた。

「この少女の豹変ぶりからしておかしいよ。どんなに困った人も助ける心を持っておいて何不自由もなく…

 なんで殺人する意味があったんだ?」

クッキーを頬張りながら少年は目と言葉で少女に問いかけた。

「え、えぇ…? それはぁ〜…」

少女は手を顎のほうに持っていき、首を傾げる。見た目が少し外人風なので人形のようで可愛らしい。
対して少年のほうは見るからに日本人といった感じで少女とのつながりは無さそうな格好である。

「…はは、ごめんね? "姉さん"にはちょっと分かりずらかったかな?」

少年は優しい手つきで姉さんと呼んだ少女の頭を撫でる。
それが気持ち良いのか、少女は片目だけ細めてじっとしていた。

「…だ、大丈夫です…!」

すぐさまハッとした顔をして、少女は少年の腕を両手で掴んで上へ押し上げる。

「うぁっ!」

すると、驚いたことに少年の体は宙を舞い、勢いを失わずして地面へと叩き落された。

「あ…っ! ご、ごめんね? 大丈夫? 流都ると

少女が慌てて今さっき自分で"振り落とした"流都と呼ぶ少年の元へと駆け寄る。

「いてて…だ、大丈夫だよ…。冬音ふゆね姉さんの"ソレ"にはもう慣れたよ…」

すると、少女は涙目で手をもじもじしながら

「だ、だって…! 流都が…その…撫でてくるから…恥ずかしくて…」

恥ずかしがっている姉の姿についつい笑みを零し、立ち上がる。

「…そういえば、夏喜なつきのやつ遅くな——」


「ッただいまー!!」


元気よく殺風景な個室の中にこだまするよく響く活発な女の子の声。

「お帰り、夏喜なつき。遅かったな?」

流都が帰って来た元気のいい少し大人っぽく見える女性に向けていった。

「うん! ちょっと買い忘れたものがあって遅くなったんだよ!」

食材やらなにやら色々入った買い物袋を殺風景な木のテーブルの上にゆっくりと置く。



見た目は可愛くて、儚そうに見えるけど、腕力がものすごいのではなく、"戦闘能力"が高い姉の冬音。

元気よくて、活発そうで、そして見た目は年上っぽい美女の妹、夏喜。

そして、この姉妹の丁度真ん中の僕は流都。


僕たちは、三人共正式な兄弟ではない。遺伝子のみの繋がりである。
生まれも何も一緒に育ったわけではない。自分達三人は"混ぜられた人種"なのである。

そう、僕たちは人じゃない。人以外でないといけない人種なのだ。

遺伝子配合人種体。それが僕たちの人種の呼ばれ方だった。
自分達の場合、元々あるはずだった遺伝子と遺伝子を混ぜられた人種。

ゆえに、クローンではない、新たな人種といえるものだった。


僕たちがこうやってこの小さな小屋の中で暮らしているのには、わけがあった。

わけが、あったのだ。