ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 偽りの中の輪舞曲 ( No.12 )
- 日時: 2010/11/12 16:23
- 名前: 遮犬 (ID: pD1ETejM)
いつ、生まれたのか。
家族は、誰なのか。自分は、誰なのか。
何故、こんな"真っ白い不気味な個室の中に閉じ込められているのか"。
分かるはずもない。いや、分かるほうがおかしいのだ。
だが、自分自身で目覚めた瞬間そう思ったことをおかしいとは気付かない。
自分は、どうやら透明で一見薄いケースのようなものの中に閉じ込められていた。
大きさは、自分の背丈より大きい。個室にあるのは自分を閉じ込めているケース以外のほか、何もなかった
しばらくじっとしていると、奥に見える扉が開いた。そこから出てきたのは、白衣を着た男。
「目覚めていたか…"ベイビー"?」
ベイビー…なるほど、自分は"赤ん坊"なのか。そこで初めて自分の正体がわかる。
声を発そうとするが喚き声しかあげられないのはこのせいか。歯がまだ出揃っていないようだ。
「完璧な存在…完璧な人間。クローン技術と遺伝子配合実験の行く末が"君"というわけだね…」
君、というのはどうやら自分のことらしい。完璧な存在、それもまた、自分のことなのだと分かった。
自分のおかれている状況も把握した。自分は、どうやら"作り出された神"のようだ。
思わず、笑ってしまった。この目の前にいるバカな学者に向かって。
「ふふ…そうかそうか、君も嬉しいか。完璧な人間ほど、最強な生き物はいない…」
そう呟いて高らかに笑った。その学者の姿に嫌悪を抱く。
——戯言などいい。早くここから出せ。それからは全て自分のものなのだから。
高らかに笑う学者の姿を見下すかのように冷酷な目で見据える。
「それじゃあ…神を分裂でもさせようかな?」
——ちょっと待て。
その言葉に耳を疑った。分裂?何を言い出す。
そんな想いも虚しく、出れば思うがままなのだが出さ
れることなく、そのまま別室へと運ばれる。
——神など、一人でいい。一人存在すればいいのだ。何故分類させる必要があるっ!?
いくらケースの中で叫ぼうと、それは喚き声にしかならない。
「絶対なる存在はね? この僕なんだよ。君じゃないんだよ…ふふふ」
——そうか、相手は人間。欲望という哀れな感情ゆえのもの。
「僕が世界を従えるんだ…! あははは! 世界は僕のものだぁああ!!」
狂ったように叫びながら、ケースを巨大な容器の中へと入れ、そばにあるスイッチを押した。
「うぎゃぁあああああああああああ!!」
凄まじいうめき声が容器の中一面に伝わる。
「ふふ…ふふふ…! すばらしい…! これぞ…! これぞっ! わが最強の神の三兄弟だっ!!」
それが、僕たちの、生まれた瞬間だった。