ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 偽りの中の輪舞曲 ( No.14 )
- 日時: 2010/11/12 16:34
- 名前: 遮犬 (ID: pD1ETejM)
「…よし、ここの角を右に曲がって」
目の前を行く二人に告げる流都。
既にビル内に潜入し、目的の"人物"を探す。
探すといっても、もうどこにいるかなどとっくにわかっているのだが。
小奇麗な外見を似合わない格好で三人は行く。
——誰もいない。警官も何も。
流都は安易にこの違和感を想像し、どういう事態が待ち受けているのか"分かっていた"。
そして目的の人物のいるであろう大きな部屋の扉の前まで来たとき、
「さぁて…姉さん達、ちょっといいかな?」
流都の目にあるのは上に見える人がギリギリ通れるぐらいの換気口だった。
部屋の中で待っていたのは、このビルの主たる人物。その人物こそが、流都たちの目的の人物。
ただ広いだけの部屋に、壁紙は豪華に彩られ、その他の置物は何もない。
まるで、何事の"後始末が楽なような"、そんな違和感の感じる部屋。
その真ん中で腕を組み、立っており、このビルの主である人物こそが——クローンであった。
クローン技術は完璧かと思われた。同じ人間を創り出すことはたやすい。
だが、所詮は"同じ"なのだ。人類は同じではなく、超越を求めた。
その結果、クローンはオリジナルの潜在能力等をも発揮し、他の遺伝子を組み合わせることも可能。
ゆえに、超越に成功するのだった。だが、オリジナルの方は普段と同じではなく、
確実に死に至る。それを承知で学者たちは最強のクローンを作っている。
そしてそのクローンが新たな能力を発揮するために人を喰らうということも、どこの政府も認めているのだ
殺人事件やらなにやら警察が絶対に犯人を捕まえてみせるとほざき、
真実とは違う何もしていない人から証拠をでっちあげ、政府はそれをスルーし、通す。
真実の無い、世界。腐った世の中。
つまり、この世の中を勝つためには、力が必要なのだ。絶対的な力が。
自分はそれを手に入れた。ネズミがいくら騒ごうと、自分の相手ではない。
そう、このビルの主たるクローンは思っていた。
自分の着ている紳士服をもう一度よく着こなし、目の前の扉から来るであろう敵を待ち構える。
他のところからは侵入されないように全て封鎖してある。もちろん、換気口もだ。
いや、"換気口から見えている"というのが妥当か。
——さぁ、来い!
そう念じた次の瞬間、目の前の扉が開いた。
——きた…!!
現れたのは、一人の少年。ノートパソコンを後ろの腰に付け、腰の横には鉄の塊——銃が二丁あった。
「ふふふ…ようこそ。お客様?」
クローンは余裕の笑みで来客を出迎える。
(噂では"クローン殺し屋"は3人の兄弟だと聞いたが…まあいい。一人ならばなおさら後始末が楽だ)
思わず笑みがこぼれてしまうのを我慢して、まんまとワナにひっかかった"ネズミ"に近づいていく。
「どうだい? 私のビルは…ここまで育て上げるのには苦労したよ…」
ゆっくりと歩いていく。歩きながら喋る。予定のフィナーレまで。
少年は何もいわない。ただ、無言で自分の顔を見つめている。
——気に食わない。何かあるのか?いや、ないはずだ。"自分達"のプランは完璧のはず。
自信満々に考えをやめ、再び歩き出す。
「ようこそ…この私のビルに。貴方様をお待ちしておりました…最高のおもてなしをさせていただきます」
そして立ち止まり、フィナーレの合図を送ろうとしたその次の瞬間。
「——まず一つ。違和感を感じた」
「…は?」
思わず、素っ頓狂な声で少年に聞き返してしまった。
「この部屋の中にしろ、何にしろ、だ。警備員等がいない…いや、これは貴様の計算なんだろうな」
「…何がいいたい?」
さっきまでの余裕が吹き飛び、代わりに逆の違和感を感じ取ることになった。
そうだ、そもそもおかしい。何故…何故こんなに"静かなのだ?"
自分が仕掛けた罠とは、相手は警備員等がいないことに違和感を抱きながらもここにくるであろう。
それも警戒をして、だ。まさにそれこそが狙いだった。
警戒する上に、半ば疑いながらここに来るだろう。換気口などを調べても封鎖されていると分かるからだ。
そして、自分に襲いかかるだろうと。
"自分の見ているところでは"そう確信していた。
「あんたは…影武者と呼ぶべきもの、だろう? 下手な真似してくれるな?
換気口に、あった封鎖口のところに警備用のチップがあった。それを応用させてもらった」
「何…!? そんなバカなっ!」
驚くのも無理はない。
あのチップを使えば確かに"本物"のいる場所は特定できる。だが、そのためには
10万7千9百50万ケタの暗号を解かないといけない。
つまるところ、その暗号をこの目の前にいる高校生ぐらいに見えるこの少年は
この扉に入ってくるまでのあの数分間の中で果たしたということだ。
「んー…ま、場所割れて、君の本体たるクローンさんを裁かせてもらったから…後は、アンタだけだ」
少年の言葉がやけに重く、死を意味する言葉に聞こえた。
その瞬間、自分にはもう何も武器はないと思った。来て、合図をした瞬間にIDチップから見ているはずの
もう一人の自分たる本当の主、いや、親ともいえる完全なクローンが一気に仕掛けを発動して、殺す予定。
そういったものが一瞬で崩れ去ったとき
「うわぁあああああああああ!! し、死にたくないぃっ! 死にたくないぃいい!!」
人は、恐怖に怯える。クローンも人は人。人を喰らうのは完全なるクローンのみ。
完全なるクローンは戦闘力も高く、まず普通の人間だと死なないのだが、反応がない限り、死んだと思った
実際のところは——
「逃がしたか…逃げ足の速い」
冬音たちが本体の元へと行った時、既に壁が砕け散っており、主の姿はなかった。
そう、当にもう一人たるクローンの自分を見捨てていたのだった。
「お前も本当はなかった命だ…今朽ちても別に惜しくはないだろ?」
流都は冷たく言い放ち、そして銃を取り出し、ただ怯えている男に向ける。
「や、やめ…! いやだ…! 死にたくないっ! 死にたくないぃいい!!」
流都は構わず銃声を広い部屋の中に響かせる。何度も、何度も。
「はぁ…はぁ…はぁ…!」
床に飛び散ったのは…弾丸のみ。
恐怖のあまり、"無傷"の怯えていた男は気絶していた。
丁度その男の少し左にズレたところに銃弾の跡があった。
「…まぁ、いっか」
銃を、ゆっくりと腰にしまった。