ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 偽りの中の輪舞曲 ( No.15 )
日時: 2010/11/24 13:35
名前: 遮犬 (ID: XvkJzdpR)

「いらっしゃいませー!」

元気のいい声が店内に響く。
客人の数はまずまずというとこだろうか。テーブルは5席ほどしかなく、小さな喫茶店である。

「姉さん、こっち終わったよ?」

外見高校1年生といったぐらいの少年、流都はレジの前でかれこれ数十分ウロウロしている姉に声をかける

「え、あ、うん…流都。…その…レジ、どうやって開くんだったっけ?」

流都の姉である冬音が今にも泣きそうな顔で流都を見つめる。
そのレジの前では20〜30代ほどの男が気まずそうに突っ立っている。
その姿を見て、流都は急いでレジを自分で開き、お釣を払い、なんとかその場をしのいだ。

「ご、ごめんね…? 流都…」

涙が大きな可愛い瞳から流れ落ちそうなのを見て、慌てて流都は冬音を慰める。

「いや! 大丈夫だよっ! ちょっとこっちで休憩でもしよっか。ココア入れてあげるからさっ!」

「うん…。あ、ココアパウダー多めがいい…」

なんだかんだいってちゃっかりと自分の好きな味にしようとしているところもまた可愛いとは思う。

「全然人が入ってこないっ!」

夏喜が頬を膨らませながら流都の元へと歩いてくる。先ほどの接客は夏喜がやっていたのだった。

「もう昼飯時過ぎたしね…。さすがに落ち着くと思うよ?」

流都はそういいつつも自分の元の仕事である皿洗いを再開した。
夏喜の言うとおり、さっきまでは少々客はいたというのに今はもぬけの殻である。
だが、嬉しかった。三人はそれぞれ微笑む。

流都たち三人は喫茶店を住み込み、三人で働いている。無論、他の従業員はいない。
夜の喫茶店を閉めたらクローンの殺し屋へと変貌する。
依頼を請け負い、それを実行するのが仕事なのだが、クローンだけと限られている。

その仕事のおかげでお礼にこの喫茶店を報酬としてくれたのだった。
あの小さな小屋は自分達の武器や何やらとおいてある。
全く人気もなく、通常の人間では入り込めないようなところにあるため、安心なのであった。

この、通常の生活、この平和な時間。これこそが流都たちが望んでいた"幸せ"だった。

自分たちが生まれてきた理由、ここに存在する理由のために戦う少年少女の義兄弟たちは
"日常"が欲しかった。人間だと主張するかのように。

夏喜がふとテレビのリモコンを操作し、テレビをつける。
テレビの画面にゆっくりと映像が出てきたそれは丁度ニュースだった。

『——昨夜、何者かに研究所が爆破されたとの通報がありました』

流都たちが昨日、クローンを取り逃がした日には別のところで研究所が破壊されていたのだった。

「へぇ…やっぱり私たちのほかにも研究所を潰す奴らがいるんだね?」

夏喜が何故か笑顔で後ろの流都と冬音に向かって振り返って言った。

「研究所を潰すというより、僕達は片っ端からクローンを殲滅してるだけだけどね…」

それぞれのクローンに対する恨みを抱えた人たち。悲しみ、憎悪などに悩まされる人々。
それらの人のためにもやっているといえば嘘ではない。だが、真の目的は違う。

自分達は確かめたい。何故自分たちは生まれたのか、どうして今ここにいるのか。
クローンを倒さなくては自分たちの存在意義がなくなってしまうかのようで怖いというのもある。

流都は横から夏喜の持っていたリモコンを取り、電源ボタンを押してテレビを消した。

「さて…仕事だ、仕事」

そういってまた皿洗いへと戻ろうとした時、

一つの黒く、見るからに高級感のある車が一台店の前に止まった。

その中から現れてきたのは、黒人の男が一人、そしてその黒人の男によって開けられたドアから
顔のしわが目立つ、白髪の茶色のスーツを着こなした老人が杖をついて出てきた。

「…ここに、クローンのみを殺すことを扱っている殺し屋がいると聞いたのだが」

黒人が店の中へと入ってきて、いきなり流都たちに尋ねた。

「…どこでそれを?」

流都が相手の表情、姿や目的までもをよく観察しながら逆に問う。
黒人が口を開こうとした時、横から老人が杖をついてゆっくりと流都たちに向かってきた。

「では…君達がその殺し屋かね?」

老人が微笑み、口を開く。何ともいえない不気味さを感じたが流都は難なく返す。

「…はい、その通りですが——」

「なら、話は早い。…早速依頼を頼もうか」

老人は、そのままの笑顔のままで話した。

不気味さが漂い、何者かも判断できずにいた。


この老人の笑みの奥に隠されたモノは意外にも冬音が一番敏感に反応した。

——この老人は…

     いけない。