ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 偽りの中の輪舞曲 ( No.24 )
日時: 2010/11/17 17:08
名前: 遮犬 (ID: pD1ETejM)

「どういうことですか!?」

冬音が真っ先に流都へと問う。
その問いはもちろん、流都のこの街の人間が全て実験体となる、という言葉にだった。

「説明は後でする! ごめんけど、早く準備をしてくれ!」

流都の言葉に間違いはないと思った冬音と夏喜は急いでその言葉に頷きで返し、用意をし始める。
流都もノートパソコン、銃に、無線など、様々なものを出来るだけカバンに詰め込んだ。




三人が持ち前の(クローンの奴から盗んだ)車で移動最中、先ほどの説明を流都は離し始めた。
運転しているのは運動能力・戦闘能力と、ともに高い冬音が運転していた。ただし不安げな顔で。

「この街に遺伝子をバラまくんだ」

そう、指をさしたのは現在向かっている街である新実にいみ市であった。

「わかってるけど……それがどうかしたの?」

夏喜が訝しげに流都の顔を見ながら聞く。
流都はゆっくりと頷いて言葉で返した。

「それが問題なんだ。この街にバラまくのが」

夏喜が「どうして?」と、聞く前に流都は続きを話しだす。

「いいかい? ここには、病院と刑務所が二つ並んで建っているんだ」

言いながら流都はマーカーで地図に印をつけ始めた。

「そして……ここ」

次にマーカーで印を入れたのは、街はずれだが病院近くの第3研究所というところだった。

「ここはもう、活動してはいないと聞くけど違うね」

「どうしてそういいきれるの?」

夏喜の返しは正論であった。
だが流都の確信は揺らがない。

「この研究所、調べたところによると生態などを調べている研究所みたいなんだ。

生態の研究所って、ウイルスとかも円満しやすいから本当ならもっと外部に置くべき」

ここまで流都がいうと夏喜は驚いた顔をしてその続きを言う。

「じゃあ……こんなに近いっていうことは、病院と研究所は繋がってる?」

「そういうことになるな」

だんだんと研究所が見えてくる。自分たちの目的は、無論研究所だった。
時刻は既に夕方の時期まできており、辺りは薄暗くなっていた。
そんな中に一つはずれに建つ研究所はかなり不気味に思えた。

「恐らく、遺伝子をバラまいて、研究所にその人間たちが行く。

実験として使える奴は研究所。使えない奴は刑務所という風に割り振ってるんだろうな」

聞くだけでヘドの出る話だった。
つまりはこの街で遺伝子をバラまかれては、大量の新たな"何か"が科学者から生まれる。
またそれが生まれたことで世界は凶変する。
そんな悪循環の始まりともいえた。

「殺人遺伝子何かじゃなく、これはれっきとした科学者の実験なんだ」

流都がそう言い放った後に、車が止まる。

「ついたよ?」

冬音が小さな声で流都と夏喜を促した。
そして二人は降りようとした時

「待って!」

いきなりの冬音からの静止命令に二人は動きを止める。

「どうしたの? 冬音姉さん」

冬音はさっきまでとは異なり、妙に真剣な顔をして目の前を凝視する。
その目の先にはあの不気味な研究所が建っている。
エンジンをもう一度かけ直し、冬音の目は黒から黄色へと変わっていた。
目の色が変わる、これは能力を発動している状態をさしていた。

つまりは、この近くに何かがいるということを知り、それが敵とみなしたために色が変わったのだ。
流都と夏喜はこのことを知っていたために、息を呑み、この場は冬音に任せることにした。

「二人共、捕まってて」

冷血なようにも捉えられる言い方はまるで別人のようだった。

冬音はハンドルを握り、アクセルを思い切りよく踏んだ。
勢いよく加速していく中、流都と夏喜はどこかにしがみついて何とか耐えていた。

「……囲まれてる」

冬音がボソリと告げた。
流都は窓の外を見る。すると先ほどの黒服の男らしきものが自分たちを取り囲んでいた。

「これはこれは……」

流都は呟きながら、銃を引き抜いた。
夏喜もそれに合わせて黒い手袋をはめる。

「暴れても……いい?」

冬音は流都の顔を見て言った。
それに流都は微笑み返し、さらには悪戯っぽい感じで言った。


「うん。暴れて、舞って、派手にここをぶっ潰そうか。冬音姉さん、夏喜」

「はい」「うん!」

二人の声が同時に重なる。そして冬音はアクセルをもう一度大きく踏み、黒服の波の中を突撃していく。

黒服たちはまるで生きていないかのように流都たちの車に撥ね飛ばされる。
まるで、命がないかのように。

「やっぱりこいつら……クローンか」

流都がため息混じりに呟く。

「掴まってて」

冬音はそう一言告げると、いきなりハンドルを曲げ、アクセルを飛ばす。
見事にスリップしたかのように無常な回転となる。
回転したまま、黒服の波を押し分ける。

そうしている内に、研究所の前にまで着く。

「はぁ……吐きそうだったよ……」

流都は苦しみながらも研究所を見て静かに笑う。


「ビンゴってわけだ」


流都の後に冬音、夏喜も続いて車から降り、研究所に入る。


その中に、何が待ち受けているかも知らずに。