ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 偽りの中の輪舞曲 ( No.25 )
日時: 2010/11/20 16:37
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: pD1ETejM)

研究所内には難なく入れた。
明かりもまばらだが、ついている。
ということはこの研究所は機能はしているという確証だった。

建物内は明かりこそついているが、消えかけのような状態なので薄暗い。
入り口からすぐ傍にカウンターがある。
どうやらそこは元受付場だったようだ。
受付場の奥のほうにはロビーがあった。何台も椅子やら机が置かれている。
受付で仕事をしていた者達が使っていたものだろう。
壁は既にひび割れがひどく、ものすごく煙や砂の匂いがして何だか荒野にいるような気分である。
ここはもう使える状態ではないと分かりに分かる元受付場の姿だった。

「先が二つに分かれてるな……」

明かりがまばらにつく通路側を見ると扉が二つあった。
明かりが少しでもついていないところは瓦礫のようなもので塞がれており、いけないようになっている。
つまりはこの内の二つの中のどちらかを選んで行かなくてはならない。

「ちょっと待ってて」

流都はおもむろにノートパソコンを取り出す。
だが、案の定圏外のようでインターネットは使えなかった。

「ま、そうだろうな……」

流都はそう呟くと、ここに来る前に調べておいたここの元々の地図を頭に残していたのを思い出す。
これも神の頭脳といわれる遺伝子を持つおかげか、記憶を鮮明に覚えておくことが出来る。
その能力を使って地図の情景を浮かびあげる。その知識が正しければ……

「こっちだ」

右の扉を指でさし示した。
流都の言葉を頷きで返し、冬音は右側の扉を思い切り
——持っていた大太刀で切り裂いた。

いとも簡単に扉は真っ二つになる。
これはもし敵が待ち構えていたらを予測しての行為であった。
無事、異常はないことを確認すると流都たちはそのまま右側の扉の中へ入り、まばらに続く乏しい明かりがついた薄暗い通路を走っていった。




「カッカッカッカッ……! 予想通りじゃわいっ!」

不気味な笑い声と共に、目の前の流都たちが写っているモニターをまじまじと見る老人。
その老人は先ほど流都たちの元に依頼しにきたあの老人であった。
横には、黒いサングラスのせいで表情がわからない先ほどの黒服の黒人男もいた。

「デルメス! こやつ等がこの付近まで来るのもそう遅くはなかろうて。準備しておけ!」

黒服の男にそう告げた老人。
デルメスと呼ばれた黒服の男は黙ってその場を立ち去っていった。

「カカカ……お前達はもう、ワシのモノ同然じゃ……!」

一人、薄暗いモニターだらけの部屋で不気味な笑い声で老人は笑っていた。




一方、その頃。
とある一つの喫茶店にて、少年はいた。
右肩には肩当てをしており、黒髪の少年は目の前に置かれたコーヒーを飲む。
周りは少々賑やかで、人が席の4割は占めていた。
カウンター席で一人寂しくコーヒーを飲む少年。
騒々しい周りの人の声に混ざるテレビのニュース。

『——昨夜、研究所がまた一つ破壊されるというテロに遭いました』

そのニュースを見ている店のマスターは「ふむぅ……」と、言いながら誰に言うわけでもなく

「世の中物騒なもんだねぇ……全く」

他人事のような物言いをしつつ、コップを磨く仕事に戻る。
黒髪の少年はそのマスターの言葉に惹かれてか、ニュースを見る。

『——こういった研究所破壊テロの捜査は行われ続けていますが、現在は何も証拠がでず——』

そして、少年はふっと笑った。

コーヒーがまだカップに半分ほどまで入っているというのに立ち上がり、金をおもむろに取り出す。

「ちょ、ちょっと、お客さん。これじゃ多すぎだよ」

どうみてもその額は多く、コーヒーを追加で10杯は飲めるほどの料金だった。
だが、無言で少年は店から出て行く。
気持ちいいほどの青空と日の光に当たりながら、呟く。

「今日もまた一つ、この世の条理に飲み込まれる。
  
     それはまた、今日もゆっくりと、飲み込まれる」

右目が赤、左目が青の特殊な目を持つ者。それは禍神まがかみと呼ばれる者を総称してそう言う。
ただ、その禍神は全くおらず、その目を持つ者は"最凶"と呼ばれるほどの者らしい。


『今朝の研究所テロはなんと、禍神の少年ということが判明いたしました!』


先ほどのニュースからその報告が驚きの言葉と共に発せられる。
それにマスターは驚いて拭いていたグラスを落とした。当然、割れて粉々になった。
だが、そんなことも気にせず、ただ先ほど出て行った不可思議な少年が通った道を見つめた。


「さ、さっきの……!!」


この少年の目は右目が赤、左目が青。つまりは、禍神だったのだ。


「さて、次のターゲットはどこかな……?」

少年は、笑いながらそう呟いた。