ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 偽りの中の輪舞曲 ( No.26 )
- 日時: 2010/11/21 01:51
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: pD1ETejM)
少年の目は生まれつきだった。
生まれた当初、不気味な子だといって捨てられた。
孤児として孤児院に拾われた。それは優しき一人のシスターのおかげだった。
そのシスターは年老いており、高齢だったが現役で活動し、悩める孤児たちのために孤児院を開いていた。
少年は道端に捨てられていた。まだ幼い3歳ほどのことだった。
シスターは笑顔で近づき、目を見ても何も言わず、ただ孤児院へと連れ帰った。
だが、孤児院で待っていたのは少年の過酷な運命だった。
禍神ということで拾ってくれたシスター以外は皆反感を持っていた。
拾ってくれたシスターが一番その中では権限を持っていたので、誰もはむかうことが出来なかった。
そのかわりに嫌がらせを少年に嫌というほどしたのだった。
それを見て周りの孤児も真似し始め、行う。
そのたびにシスターが怒ってくれたのだが、とうとうそれも敵わなくなる。
シスターが死んだのである。高齢だということもあり、やむをえないだろう。
去り際に少年はいた。そしてシスターは少年にある言葉を残したのだ。
「自分が……誇れるような生き方をしなさい。なりたいものになりなさい。人を愛せる人になりなさい。
それが、人間っていうものだから。神様は必ず、傍で——」
意味深な言葉と共に、シスターは少年をおいてこの世を去った。
悲しんだのは、自分を含め他にこのシスターを拾ってもらった子だけ。
他同業者のシスターは皆、悲しむどころか笑っていた。
シスターが死んでから3年後、少年は9歳にまでなっていた。
知能はものすごい才能を秘めており、常人のレベルではない頭脳を持っていた。
シスターが亡くなった事で周りの者からの嫌がらせもエスカレートしていた。
だが、少年は耐えた。シスターの最後の言葉の意味を考えながら。
シスターの言葉の意味がいまいち理解できなかったのである。
どれだけ頭をこらしても勉強とはまるでわけが違った。
そしてそのまま月日が流れる。少年の生甲斐は既にそのシスターの言葉の意味を探るだけとなった。
少年は13歳になり、様々なことを身につけたある日のこと。
シスターたちはあることを計画する。
それは、禍神の子を殺すことであった。
神に仕える子が、禍々しい神に刃向かう者を総称する禍神を育てていては神へ対する侮辱だと。
そして、ついに計画が実行される時がきた。
少年が寝ている間に、殺そうというものである。
つまりは寝込みを襲うのだった。シスターは計10名ほどいた。
それぞれにナイフやら物騒なものを持ち、他の子供にばれないように。
「ふふ……禍神の子なんて、死ねばいいのよ……!!」
一人のシスターが喉下を突き刺そうとした瞬間。
「誰?」
ピタリと、ナイフを止める。
いや、止めなければいけないような気がした。止めなければ、自分の首が逆にはねていたような気がした。
ゆっくりと少年は目を開けた。
暗闇に映る、赤と青の目。
「ひっ……!」
恐ろしく、不気味に見えた。
そんな禍々しい目でシスターを見つめながら、少年は笑う。
鳥肌がたつ瞬間が分かる。寒気すらも感じる。
状況は少年が殺されかけているというのに、少年は笑っていた。
そして、こう言い放つ。
「ダメだよ……。夜は、静かにしとかなきゃ……」
少年はゆっくりと立ち上がる。
シスターたちは身動きがとれなかった。逃げたくても、逃げれなかった。
そして、一番最初に少年を殺そうとしていたシスターに異変が起きる。
「うぐっ……!」
肉が裂ける音。皮膚を貫く音が部屋中をうごめいた。
少年の手刀がシスターの腹に突き刺さっていたのである。
「ごめんね……? 許してくれるでしょ? だってさ……」
少年は、さらに不気味な笑顔を浮かべる。
シスターたちは逃げたくてたまらなかった。だが、足が竦み、逃げれない。
今更ながらシスターたちはこんなことするのではなかったと、心から後悔した。
ゆっくりと手を貫いた腹から抜く。
そして、少年は不気味に言う。
「アンタたちも、それぐらい僕にひどいことをしたんだから」
少年の部屋は血まみれだった。
白い綺麗な壁が全て血によって真っ赤に染められていた。
周りにはいくつものシスターの死体。
その真ん中に、少年は立っていた。そして、あることを思いつく。
——まだ自分にひどいことをした同年代がいるじゃないか
少年は殺しまわった。静かな夜を徘徊する殺人鬼と化していた。
——もういっそ、みんな殺そう。あ、でもシスターの死んだ時に一緒に悲しんだ子は助けてやろう。
手と服を真っ赤に染め上げて、その子たちの元へと行く。
だが、格好が格好だったためか、その子たちはみんな泣き叫んだ。
「叫ばないでよ……。生かしてあげるっていってるんだからさ」
けれどもその子たちは泣く。
そして少年は、笑う。
「仕方ないなぁ……じゃあ、死のっか」
全員殺した後に、その屋敷を燃やした。
これでいいんだ、そう思った。そうしなければ自分がいずれかは死んでいたから。
こんな場所、あのシスターがいなければ何もない。
「どうやら僕にはすごい力があるみたいだ……」
少年は、自分の真っ赤に染められた姿を見て、微笑み、そして笑い声をあげる。
だが、一つ自分には思うものがある。
それは、あの老人シスターの最後の言葉。
あの意味がまだ分からない。
不愉快だった。そのことを思い出して笑い声をやめる。
そして、あることに意外なことに答えが出る。
「そうだ……答えが分からないなら、世界の真実を見ればいいんじゃないか。
世界の真実にあるもの、それがきっと答えなんだ」
少年はそして決意する。
真っ赤に燃える館を後ろ背に。
「僕は、ノア……。禍神のノアだ……」
月光に光る少年の姿は、美しさもあるがそれだけではなかった。
最凶とうたわれるに違いない一つの存在としてそこにいるように
真っ赤に、真っ赤に、少年の姿を彩っていた。