ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 偽りの中の輪舞曲 ( No.27 )
日時: 2010/12/27 17:30
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: S19LK/VD)

「また二手か……」

薄暗い通路を幾多の如く走り去った後、またしても二手にと道は分かれていた。
この二手の道が訪れるたびに自分の力を使わなければならないのかと思うと流都は思わずため息を漏らす。

「大丈夫? 流都」

冬音が心配そうに流都の様子を伺う。

「あぁ、大丈夫だよ姉さん」

冬音を安心させるかのように穏やかな口調で告げた後、静かに神経を集中させ、力を発動した。
鮮明に脳裏へと地図の情景が浮かび上がる。
そこで自分達のいる場所を把握、奥へと繋がる道は左の方の扉のようだが——

「ん……?」

「どうかしたの?」

夏喜が首を傾げて目を閉じて集中している流都へと話しかける。

「いや……左で間違いないみたいなんだけど、右に不自然な通路がある」

不自然な通路。それは地図上で行き止まりのはずの右通路途中にある違和感が感じられる空間のことだった。
何故このようなところに空間を空ける必要があったのか? 

「……これは、怪しいな」

考えられた答えが見つかったように笑みを浮かべると流都は目を開けた。

「僕は右側通路に行く。二人は左側通路に行ってくれないか?」

その流都の言葉に動揺する二人。

「一番戦闘において危険なのは流都お兄ちゃんじゃない!」

夏喜の言葉は分かる。だがしかし、ここは"自分の頭脳"でしかいけないと流都は確信していたのだ。

「頼む。俺は大丈夫だから。確かめたいこともあるんだ、必ず戻る」

その流都の目は迷い無き目であった。
姉と妹はこの流都という少年のこの目が苦手だった。
この目は、決意の目。その心を曲げることは流都のプライドというものに関わるものでもあったからだった。

「……分かったけど、本当に戻ってきてね? 流都」

冬音が心配そうに言う。
その言葉に流都は優しい笑みを浮かべて「大丈夫だよ」と答えた。

「なら行こう、冬音お姉ちゃん」

「うん……」

冬音はまだ心配そうな顔をしていたが、夏喜に促されると共に左側の通路へと走り去って行った。

二人が完全に姿が見えなくなることを確認すると、流都はおもむろに銃を取り出し——天井に向けて撃った。
いや、正確に言えば天井ではない。天井の上にある"小型カメラ"にだった。

「悪趣味だよね……。人を観察して、いい気になってるネズミ共」

取り出した小型めの銃を元の場所へと仕舞い、代わりに後ろ腰につけてあった大きめの銃を構える。

「今からがゲームスタート、だな」

不気味に笑った流都は右側の扉を銃を何発か発射してこじ開けると、薄明かりの通路を通っていった。




「あの小僧ッ! ワシの策に気付きおったか!?」

薄暗い明かりで照らされるモニターだらけの部屋で老人は一人喚いていた。
息を荒くして、しばし沈黙が経つと深呼吸して再び椅子に座りなおした。

「まあ良い……こちらには最凶のクローンともいわれたデルメスがおる……」

そうして、ワイングラスへと赤い血のようなワインを酌む。
一口、ワイングラスに口をつけて飲む。

「ふふ……今宵は面白いことになりそうだ——」

その時だった。
何かが、後ろにいる気配を感じた。
恐ろしい殺気を、巨大な殺気を後ろの方で感じ取ったのだ。

「な、何者だっ!」

後ろをすぐさま振り返る。だが、そこには誰もいない。
薄暗い部屋を照らす薄暗い電球が点滅し始める。

「誰かいるのかっ!?」

老人がいくら叫んでも声は薄暗い部屋に響くばかり。
モニターだらけの部屋は何の音も無く、無音であった。

「い、一体なんだというのだ……!」

そうして、モニターの方へと再び振り返ろうとした時だった。


「——最後の祝杯は飲み終えたか?」


「——な」

何を言う暇もなく、老人の頭はモニター目掛けて跳ね飛んでいた。
鮮血が薄暗い部屋を彩る。
老人が最期に見た顔。

それは目がお互い異なる——禍神たる少年の狂気に満ちた笑みだった。

「お、ま、え、は——!」

跳ね飛んだ老人の頭は一つずつ言葉を喋り出す。

「禍神の——! ノ、アああああッ!!」

「ゴチャゴチャと、うるさいんだよ……」

ノアは老人の顔をものすごい勢いで踏み潰す。
それを続けている内に老人は声を出すおろか、既に頭という原型すらもとどめてはいなかった。

「さぁてと……ドブネズミは、まだいるだろう? なあ——神の子たちよ」

ノアはモニターに映っている三兄弟を見て、笑みを零した。