ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 偽りの中の輪舞曲 とんでもなく久しぶりですねw ( No.28 )
- 日時: 2011/01/04 23:37
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: zWHuaqmK)
ひたすら小刻みにリズムを刻みながら水音が跳ねる。
薄暗く、目の前があまり見えない不安定な状態の中を冬音と夏喜は走っていた。
——流都に何もありませんように。そう願いながら。
「ッ! 待って、夏喜」
冬音がいきなり静止の合図を送る。そして近くにある古ぼけた柱へと手招きしてきた。
それに頷いて従い、夏喜は冬音の隠れる柱へとあまり音を立てずに移動する。
ボンヤリとした薄暗さの中、冬音の目が光る。
その色は黒猫のような黄色を放っていた。
目の色の変化は中の遺伝子が突然変異を起こし、その副作用として起こる一環のものである。
冬音、流都、夏喜の三人は神の遺伝子を持っているとされ、その遺伝子の副作用は他と非ではない。
元々が一つの固体たる神であったがうえに三つに分類された状態では副作用の方が強い。
完全な神ではなく、これでは不完全な神が三人いるということになるのである。
その中でも冬音は戦闘能力に対する副作用が強く、それにより戦闘に関連するあらゆるものの遺伝子を急激に倍増することができる。
この能力は戦闘能力だけではなく、人の気配を感知する能力などにも長けている。
今現在、冬音が指摘しているのはまさにそれであり、気配がだんだん強まってきているのであった。
目の前にあるドアがいつ開くのかを心待ちに、だが息を潜めて二人は柱に身を隠している。
「……くる」
冬音の言葉通り、その刹那ドアがゆっくりと開かれる。
古ぼけたドアみたいでそれに似合う奇妙な音と共にドアは開かれていく。
ゆっくり、ゆっくり、その音は次第に止んでゆき、そして——
「っ! 伏せて!」
冬音の掛け声で冬音と夏喜は同時にその場で伏せる。
するとその上を鋭い一線が走る。それは真っ直ぐに弧を描き、当たったものを鋭く切っていく。
綺麗にスパン、という音がしたかと思ったその直後のことだった。
「目標、確認。これより消滅を開始する」
冬音と夏喜の目の前にいたのはいつかの黒服だった。
黒服は手を大きくかざし、その巨大な手を手刀として二人に襲いかかろうとしたが、冬音が目にも止まらぬ速さで太刀を抜く。
瞬間的速さで斬撃が黒服の手刀を切り裂く——が、その手は人間の手ではなかった。
「な……ッ!」
肉体のように見えて、普通の人間の手ではない。
気持ち悪いと思うほどに変色を繰り返し、また脈打ちをものすごい速さで繰り返したと思いきや瞬間再生をしたのだ。
「瞬間再生能力……ッ!」
夏喜が噛み締めるようにそういうと、自分も黒い手袋をもう一度ちゃんとつけなおす。
それを確認すると目の色がだんだんと変わっていく。色は澄んだ青色の瞳であった。
夏喜はそのまま駆け出し、黒服の隙をついて右手を振りかざす。
「外が再生なら——"中から壊してやるよっ!"」
その瞬間、黒服の腹部辺りが膨張して一気にはじけた。
肉片が辺りに四散し、飛び散る。中からひねり潰したかのような有様であった。
——だが、しかし。
「え……!」
黒服は即座に再生を繰り返し、すぐに元の状態に戻る。
そして夏喜の体を大きな両手で掴みあげると壁にたたきつけるかのようにしていとも簡単に放り投げた。
その投げた勢いのままに夏喜は壁へと大きくぶち当たる。
「はぁぁぁぁっ!!」
「……っ!?」
冬音が次に太刀を振りかざし、連続で黒服を切り刻んでいく。
何回も大きく斬りながら、もう一つ大きな大剣を取り出し、その二つの剣をものの見事に使いこなし、相手にたたきつける。
冬音の小柄な体からは想像も出来ないほどの怪力。そして目つき、そして殺気を冬音は放っていた。
黒服はたたきつけられた衝撃に、斬撃によってしばらくは動かなかったがすぐに再生を開始しようとする——が。
「させないっ!!」
冬音は更なる連撃をこれでもかというほどに黒服に叩き込む。
再生のする暇がないほどに斬撃は次々と黒服を切り刻み、斬り捨てた。
だが、それも束の間。黒服は動きが一瞬で速くなったかと思えば、冬音の腹を手の平が捉えていた。
「ぐっ……!」
そのまま手のひらは冬音を無惨にも吹き飛ばしていく。
間一髪で剣をその手の平をかざしている腕に斬りつけ、威力と命中度を下げたがそれだけでもかなりの衝撃が走った。
壁にダイレクトに当てられ、目眩をしたがすぐさま立ち上がり、血反吐を吐く。
「後……どれだけ倒せば、倒れる?」
冬音は両手に太刀、大剣と構えて黒服へと向かっていった。
流都はようやく不思議に思った空間スペースの元へと来た。
どうやらこの空間スペースは様々なところから侵入できるようであり、このルートのほかにもあるようだ。
このルートで死体やら実験台やらを送っているのかと思うと腹が立って仕方が無い。
一見普通の壁に見える空間ルームへと繋がる場所なのだが、周りを厳重に調べればたやすいことだった。
「ここか……」
四角いプレートがいくつもあり、薄暗さによって全く分からないようになっているが流都の遺伝子による力には敵わない。
目を赤色に染め、見たものを分析する。それが何なのかというものを著間的能力で当てることが出来るのだ。
直感的能力とは、脳内で考えるということよりも直感で解く能力であり、解き方は分からないが答えは分かるというものだ。
ただし流都の場合は物質などに対してのみなので道はどちらかというものに対しては効果がないのであった。
その能力を使い、薄暗い色が識別できずに小さな明かりのみで同じような地面のプレートを見分ける。
それによって言い当てたものを蹴ったり銃で撃ったりしてみると思ったとおりに底が抜けた。
「よし……」
ゆっくりとさらに薄暗い下り階段を下りていく。
ライトを片手に、そしてもう一方に大きめの銃を持って静かに歩いていく。
下りきった先には古ぼけた扉があった。
どうやらここが例の空間スペースに通じるものであると見て間違いなさそうである。
ゆっくりとドアノブを手に取り、回して行く。
そして、見えた先にはボンヤリと薄暗い光がいくつも反射しているように見えた。
まだ通路よりかはマシなほうである。そのボンヤリとした光の正体は多数のモニターであった。
「ビンゴ、のようだな」
流都はニヤリと笑うと室内へと入っていく。だが、その途中で見かけた椅子に不自然な腰掛け方をする人物の姿。
「……誰だ?」
その不自然な人物は——首から上がなかった。
よく探してみると近くの地面に頭の中身がグチャグチャにつぶれたかのような何とも惨いものがあった。
誰かがこの"人だったモノ"の頭か何かを踏み潰したりしたのだろう。
部屋の中は血生臭い匂いで充満していることに気付いた。
——胸クソが悪い。
嗚咽までも誘ってくるその匂いから早く逃げたい気持ちがあったが確かめたいことがあった。
ゆっくりとモニターの方に近づいていくたびに分かったのだが、この死んでいる人物は店に訪れた老人であった。
着ている服や、何から何まで顔がなくても一致していた。
——このじいさんはクローンのはず。黒服の方が人間だったんじゃなかったのか?
クローンならば何らかの抵抗は出来たはず。それがいかなる敵としてでも。
しかし、争った形跡がないのである。
だが、それよりも流都は一番気になることがあった。
「……一体誰が老人を殺したんだ?」
黒服、が考えられたが多分それは違うだろう。もちろん、冬音や夏喜何かは論外である。
あの老人の性格からして信用できないものを自分の近くに置くはずがない。それに動機もない。
さらに言うとこの殺し方は、普通じゃない。
首を跳ねた時点で死亡は確定しているというのに頭をここまで血の海に変えるほどにまでやる者。
そんな残忍なことをやる者がこの施設の中に潜んでいるということだった。
少し抵抗感があったが首なしの老人の体温を調べる。
体温はまだ温かい。となると流都が来る少し前に殺したということになる。
「……気になるな。何かが」
流都はモニター近くのキーボードのような機械を容易に扱い、ものすごいスピードで何やら打ち込んでいった。
——鬼ごっこをしようか
——少し、時間をあげよう
——それまでに、君たちが望むものを見つけられなかったら
「僕が、殺しにいくからね」