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- Re: 偽りの中の輪舞曲 参照300突破ッ! どこで終ろうかな… ( No.30 )
- 日時: 2011/01/22 14:11
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: .pwG6i3H)
ノアは一人、不敵に笑っていた。
今までの相手とは違う手ごたえのようなものを感じていた。
自らの瞳を前にすると、たちまち相手は怖がり、恐れ、逃げ出す。
その様を冷静沈着に見つめ、一瞬の内に殺す。その爽快感。
だが、今回の相手は爽快感とは別のものを得れそうだった。それはノアにとってかなり期待出来るものとしてみていた。
「さてと……」
ノアはゆっくりと腰をかけていた椅子——いや、死体と化したクローンから降りる。
椅子代わりとなっていたクローンは見るも無惨な形へと変形しており、血という血は全て流れ落ちて体は青白い色をしていた。
「お前らには同じ神の名がつくものとして知ってもらわないといけないことがあるんだよ……」
目の前の大きなモニターを見ながら呟くようにしてノアは言う。
外壁などは研究室のようなところで壁の色は白かったはずだが、今ではクローンの血だろうか、真っ赤に染まっている部分がある。
その赤と白のコントラストの中でノアはただ笑っていた。
この状況を、鬼ごっこを楽しもうと心から、憎悪を込めて。
数分後、流都は冬音と夏喜らに合流する。
傷を負っている夏喜を見て流都は驚く。
「大丈夫か!?」
「あーうん。ちょいとドジっちゃったんだ」
ためらうような感じで頭を掻きながら夏喜は言う。
ドジるといっても夏喜が本気を出せば無傷でも勝てると思う。そのためには代償たるものが必要なわけなのだが。
だが、使わなくてよかったとも思える。夏喜の"あれ"を止めるのはかなり厄介なことだからである。
「流都は何もなかったの?」
冬音はもう大丈夫なようで、普通の様子で流都のことを心配する言葉を口に出した。
「うん。大丈夫だったよ。でも——」
流都は、それから単独行動をして分かったことを二人に話す。
ここで自分達が求めている世界の本当の姿が少なくともあること。
ここは元々実験所兼研究室だということ。そしてここは自分達の故郷ともいえる場所の一つだということ。
最後に、禍神と呼ばれる最凶のクローンがここにいること。さらにそいつは自分達と鬼ごっこをするつもりだということ。
色々と要約した部分はあったが、二人に分かりやすいように流都は説明をした。
黙って聞いている二人の顔は少し神妙な様子であった。
「——私達の目的より先に捕まったら負けっていうのは、挑戦状と見ていいわけ?」
いや、違った。
この二人はノアの言葉を買ったのだ。つまり、ケンカを買ったのと同じようなこと。
「鬼ごっこっていっても、鬼は指定されてないよね?」
ニヤリと夏喜は表情を笑みへと変える。
どうやら逆に狩る、そんなことを考えていることが容易に考えられた。
流都はその案にあまり乗気ではない。
何せ相手の実力というものをこの目で見ていない。つまり、相手がどんな能力、行動を取り、武器すらも分かっていないのだ。
それはさすがに無謀なことだと思えたのである。
「とりあえず、相手の出方を見よう。俺達はひたすら前へと突き進めばいいだけだ。——この先に何が待ち構えていようとも」
流都の言葉に二人は頷く。そして三人は奥へと繋がる闇の中へと走っていく。
奥へと進むたびに何らかの重圧が重くのしかかっていっているような気がする。
この感覚は、三人にとっては初めてのことでもあった。
「ッ!?」
冬音がいきなりその場で立ち止まる。
何かの気配を感じたのか、周りを見渡している。
そこは薄暗い闇の中で、周りの風景などがよく見えない。なので、戦闘には不向きな場所なのだが——
「走ってッ!」
冬音の厳しい一言と共に流都と夏喜は走り出した。
原因、それは耳で分かった。
左右から壁を削っているような音が聞こえる。何かが三人に近づいているということは確かであった。
左右からだんだん近づいてくる音を懸命に払いながら走り抜ける。
そして、ようやく先の方で少し光が漏れているのを見つける。
三人は飛び込むようにしてそこに入る。それから戦闘態勢にすぐさまとって構える。
それから少しの間、無音になり——いきなりそれは現れた。
「ギャアアアアッ!!」
人の甲高い悲鳴のようなものが三人に襲う。
それは、人ではなかった。
顔は人だと何とか判断できるが、姿形はカマキリのような化け物。先ほどの壁を削っていた音はこいつのせいであることを確定する。
悲鳴をあげて鋭利な腕を三人に振り落とす。が、三人はすぐさま横へと飛び去り、それを避けた。
鋭利な腕が直撃した床は抉り取られたかのようになっていた。
この化け物はクローンからして生るものであった。
クローンが、自身の遺伝子膨張に堪えられずに、体の内部が破壊、変形されて生る恐ろしい化け物である。
それを総称して——グノアと呼ばれている。
「やるしか、ないかな……」
流都の言葉につられたかのようにして冬音が目を黄色に染める。
すぐさま太刀を抜き、鋭い腕と交わる。鋭利なもの同士がぶつかる音が響く。
大剣をそこからまた引き抜くと、カマキリグノアの腹部に当てようとするが——もう一つの腕で弾かれる。
「ギャアアッ!!」
甲高い悲鳴と共に、カマキリグノアはもう一度振りかぶって鋭い腕を下ろそうとする。
その刹那、冬音は瞬時に太刀を横で払い、切り傷を負わせる。緑色の血が飛び散っていく。
「グギャアアッ!!」
カマキリグノアはその悲鳴と共に後ろへと飛び去る。
かなり装甲が堅いようで、切り傷といってもあまり致命的なものでもないかすり傷程度のものに過ぎなかった。
流都はよく部屋の中を観察していく。その中で一つ、焼却炉のようなものを見つけた。
部屋の中は広く、焼却するために大きい生物が優に入れるぐらいの大きさを誇る焼却炉を備えていた。
この焼却炉は恐らく失敗クローンなどを燃やすことに使っていたのだと推測できる。
「夏喜っ! 冬音姉さんと協力してあの焼却炉の中までそいつを押し込んでくれっ!」
「分かったっ!」
夏喜は黒い手袋をはめ、眼を青色に変化させる。
その間も冬音はカマキリグノアと対戦を繰り広げていた。
「ッ!!」
カマキリグノアが意外にもその巨体でサマーソルトを冬音に仕掛ける。持ち前の戦闘能力で瞬時にそれを避ける——が
「ギャアアアアッ!!」
第二撃目が頭上から襲ってきていた。両方の鋭い腕が冬音を襲う。
サマーソルトで仰け反った冬音はさすがにそれを受けることは出来ない。
バンバンバンッ! その刹那、銃声が三度ほど鳴り響く。
どれも的確に鋭い腕の根元を打ち抜いていた。あまりの痛さのためかカマキリグノアはそのまま下へと倒れこんでくる。
この速さならば冬音は容易に避け、カマキリグノアを十字架のように十字に切り払った。
そこにすかさず夏喜が近づき、右手を振りかざした。
「——お前の中身、もぎ取ってやるよ」
その瞬間、カマキリグノアの分厚い脇腹が抉り取られる。
「ギャアアアアッ!!」
その衝撃と共に巨体が宙へと浮く。
そして、冬音がそこで渾身の力を込めて横へと押し切るようにして——切り払う。
「はぁぁぁぁっ!」
そのまま流れるかのようにして焼却炉の中へと上手く入り、流都がすかさず焼却ボタンを押す。
ドアは瞬時に閉まり、赤い赤外線のようなものが縦横無尽に焼却炉の中を駆け巡る。
「ギャッ! ギャッ! ギャアアッ……!」
断末魔が、虚しく響いた。