ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: 偽りの中の輪舞曲 ( No.33 )
- 日時: 2011/05/22 01:15
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: KnqGOOT/)
- 参照: 何か更新したくなったのでしますw
既に灰となり、焼却炉の中は肉体が燃やされた独特に臭みを持つ匂いが充満している。
中へ入っていたカマキリグノアの肉片は勿論、一つも残ってなどいなかった。
「ひどい匂いだな……早く進もう」
流都の発言に冬音と夏喜はほぼ同時に頷く。
三人はそのまま、研究室を抜けて次のドアを蹴破った。ドアノブが外れていたため、蹴破ることにしたのだ。
その奥はまた闇。しかし、所々ついている電球のおかげで何とか目の前の道がパラパラと見える。
「どうやら、階段があるようだな。上に行く階段と、下に行く階段」
流都は試しに、銃を取り出して前方へと撃ってみた。すると何かに当たった音がして、やがて電撃が走る音がその後に続いた。
「これは……奥に何か仕掛けがあるな」
「わ、私が行こっか?」
冬音が何故かオドオドしながら流都に提案した。すると夏喜も「私が行く!」と言い出し始める。
「いや、待って二人共。確かここは……モニターで見た気がする」
流都は瞬時に自身の能力を発動させる。次第に目が赤くなり、脳内に映像が浮かんでいく。
そう、確かここは——
「姉さん。頼みがあるんだ」
「え、え? 何?」
以前としてオドオドしている冬音に流都は唯一の光原体である電球へと指を差した。
「あれ。あれを破壊して欲しいんだ」
「え? でもそんなことすれば、目の前の道が分からなくなって逆に危険なんじゃ……」
「いや、破壊しないほうが危険だ。確かあの電球が——トラップの発動装置なんだ。人間探査機が中に仕込まれていて、電球の下を通ると、その奥にあるトラップが発動する仕組みになってる」
それが先ほど銃弾を飛ばした理由。確かめは十分だった。
思った通り、銃弾が階段付近に到達した後に電撃音が鳴った。つまり階段の方で電撃が作動するようになっているのだろう。
唯一の光原体であるこの電球を破壊するのは無謀。普通ならそうだ。だがその裏がある。破壊しなければならない、こしゃくな理由が。
「お願い出来る?」
流都の言葉に、冬音は頷いた。そして大太刀を取り出す。大きく振り上げ、旋回させて一気に飛び立つ。
鎌を振るように、三日月を描き刀を振り落とした。
ザスッ! という綺麗に斬れる音がしたかと思うと、電球がバリバリと音を立てて落ちる。地面とぶつかり合う金属音がその後に続いて聞こえた。
しかし、その代わりに視界は闇に遮られる。前が何も見えなくなった。
「こんなこともあろうかと、ランプを用意してきてる」
流都が自前のポシェットの中からランプを取り出して、マッチで中に火を灯そうとする。暗いため、何回か失敗したが、何とか成功させる。
周りに視界がボンヤリと復活していく中、流都は顔を上へとあげた。
「——やっと会えたな」
「ッ——!」
そこは、建物の中ではなかった。ランプの小さな光が、周りだけを包んでいる。
暗闇の中にポツンと一人。いや——二人。目の前にいる、目の色がどちらも違っている。これが、禍神。こいつが、禍神。
「さぁ、これからだよ? ゲームの始まりは」
静寂の闇の中、聞こえる禍神の声。
それが、あまりにおぞましく聞こえた。
「ん……」
冬音が目覚めた場所は、とある研究室だった。
そこは先ほどの焼却炉があった場所ではなく、全体が白で統一されており、特に装置が多いというわけではない。
だが、冬音はその場所を知っていた。そこがどういう場所なのかさえも。
「ふははは!! 神の子だ!!」
そして聞こえる、もう二度と聞きたくない声。
"私達を作った"、研究員。私達を、作ってしまった。
——殺したい。そんな気持ちがふつふつと込み上げてくる。
研究員は冬音に気付くこともせず、優々と目の前を通り過ぎて行った。
「待てっ!!」
いつの間にか、冬音の目は黄色に染まり、狂ったように笑いながら去っていく研究員を追いかけて行った。
夏喜が目覚めたのは、どこかの建物の屋上だった。
「ここは……?」
不思議と違和感がない場所だった。来たことがあるのだろうかと、自分の記憶の中で探してみるが、一向に見つかる気配がなかった。
「うわぁああ!」
誰かの叫ぶ声が聞こえた。その方へと夏喜は足を進める。
「や、やめてくれ……!」
怯えながら目の前に立っている——そう、それは夏喜自身の姿だった。
夏喜が目を青色に染めて、ニヤリと笑っている。
夏喜はゆっくりと怯える男の手に触れる。すると、ゴキッ! という惨い骨が折れる音がした後に肉が裂ける音もほんのすぐ後に続いた。
「ぎゃああああっ!!」
男の叫び声が聞こえる。だが、夏喜は一向に止めようとしない。表情も笑ったまま。
これは、夏喜であって夏喜ではない人格。別の人格だった。
「……痛い?」
「ぎゃああっ! ぐぅうっ! うぅっ!」
痛みでもがくのに必死で、男はポツリと呟いた別人格の夏喜の言葉に答えることが出来なかった。
「ふふ。ふふふふ。ふふふふふ!!」
笑い声が胸の中に気持ち悪いほど響いてくる。途端に、その状況を見守っている夏喜の胸が痛くなってきたのだ。
夏喜は、そんな残虐行為を犯している夏喜を止めようと足を一歩進める。しかし、胸の痛みが取れない。
(——お前も、混ざりたいんだろ?)
「ッ!? 誰だッ!?」
夏喜の脳内の中に響いてくる誰かの声。しかしその声は夏喜の声帯と同じ声。だが、どこか喋り方などが微妙に違った。
(——殺したいんだろ? お前は)
「だ、黙れっ!!」
(——楽になれよ。お前は、人殺しの道具に過ぎない)
「黙れ黙れ黙れェェッ!!」
夏喜は頭を抱えて苦しむ。何かが沸騰するように吹き上がるこの感情。一体自分は——どうしたというのだろうか。
(——お前はいつだって、狂気を求めてる)
そんな心の中の言葉に揺らされながら、夏喜の視界は閉ざされていった。
神は孤独。
それは心の中で、何かを求めている。
誰にでもある、心の狂気。
——輪舞曲は止まらない。