ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Blue cross ( No.101 )
- 日時: 2010/11/15 17:18
- 名前: 浅葱 ◆jnintUZIrM (ID: m26sMeyj)
17 笑う真紅
「さ……櫻井夏苗が死んだ? 何言ってるんだよ、夏苗……」
心配そうに、そして不安そうに聞く光の声を夏苗は嘲笑うかのように聞いていた。
先ほどの穏やかな雰囲気は何処へ行ったのか、あるのは恐ろしげな殺気のみ。夏苗なのかすら分からない。
いや、いっその事夏苗で無ければ光も、双葉もこんなに恐ろしくは思わないであろう。
しかし茶色の癖毛と、先ほど自分達が見た紅色の瞳。がそれを容赦なくぶち壊す。
「ねぇ、どうしたの夏苗? と言うより夏苗じゃないよね……お前」
「俺は“夏苗”じゃ無いよ。そうだね……強いて名を言うのなら」
夏苗はいつもと違う、鋭い雰囲気を放つ双葉にニヤリと笑いながら答える。
信じたくないと、二人のやり取りを見ている光の目が語っていた。しかし夏苗は容赦無く答える。
「……“吸血鬼”とか?」
「…………う、嘘だろ! 夏苗は夏苗だ! “吸血鬼”な訳無いだろ!!」
驚いた表情を隠さず表し、動揺しながら言う光を夏苗……否自称“吸血鬼”は横目で見ていた。
兄弟の絆をあっけなく壊し、存在自体を否定するかのような表情。それは光に大打撃を与える。
光はその場に座り込み、恐ろしいとでも言っているかのように夏苗を見ていた。
「ふぅん……じゃあもし“吸血鬼”だって言うんだったら……殺しても良い?」
“R・S部隊”のあるべき姿を双葉は取っていた。自分の武器であるブーメランを構える。
しかし光は当然と言えば当然、双葉を止めていた。……“吸血鬼”は無反応のままだ。
「待てよふたば! 夏苗だぞ!! ……なぁ、夏苗……夏苗だよな!!」
「だから違うって言ってるだろ? 俺は“吸血鬼”。お前らのて・き」
光をまるで幼児扱いするかの様に“吸血鬼”は小馬鹿にした風に話す。双葉すらも戸惑っていた。
光は拳を震えさせながら、既に目に涙を溜めながら“吸血鬼”の襟を掴む。
……煩いなぁ。と“吸血鬼”は夏苗であれば有り得ない考えをしていた。
「どうしちまったんだよ、夏苗! ……お願いだから、夏苗って言ってくれよ……」
返答は無い。双葉は光をやや気の毒そうな表情で見つめつつ後ろへ行かせようとする。
しかしふと夏苗はハッとした表情になったかと思うと光の肩を掴んだ。
……双葉は訳の分からない、と言う風な表情を見せているのに対し光は夏苗の腕を掴む。
そして最後の期待、と言う風に夏苗に話しかけた。
「夏苗だよな!」
「……あれ? 光……どうしたの?」
いつもの穏やかそうな声、殺気も消えていた。光は嬉しい、だけでは表せない程喜んでいた。
双葉は訳の分からない、と言う表情をしていたが夏苗の雰囲気と声色に一時期の狂いか、と推測する。
そして光は心から安心した風に夏苗に抱きついていた。夏苗は少し驚きつつも照れている。
「夏苗……突然ビックリしたよ、馬鹿……」
「何があったのか分からないけど……ごめん」
「本当に夏苗だよな? “吸血鬼”じゃ無いよな?」
「うん、本当だよ。よく分からないけど……ごめんね?」
夏苗は微笑みながら光を抱く。そしてホッとしてようやく離れた光の頭を撫でながら
「二度も、騙しちゃって」
もう片方の手で、鞄からマシンガンを出して、光を撃った。