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Re: Blue cross スレ100突破しました! ( No.104 )
日時: 2010/11/15 21:15
名前: 浅葱 ◆jnintUZIrM (ID: m26sMeyj)

19 Blue cross

自分の脳天を撃ち抜いた夏苗は、微笑みながらその場に倒れる。……途端に双葉の頬に涙が伝ってきた。
今のは夏苗? 夏苗だと、信じて……良いのか? それさえも分からない悔しさも襲ってくる。
夏苗、夏苗、夏苗、夏苗……そう呟いて膝を着き手で顔を押さえる。それでも涙は止まらなかった。
目の前には、ついさっき微笑んでいた“夏苗”が居た。けれど、今居るのは


…………誰?


「ッ…………」


無残な赤色の塊と化した仲間と、微笑みながら今命の灯火を消した仲間の亡骸を見る。
……すると、夏苗から先ほどの邪悪な赤い光とは正反対の穏やかな蒼色の光が映った。
そして裂かれる訳では無く幽体離脱するかの様に光が静かに浮かび上がる。まるで夏苗の様な光だった。


穏やかな、夏苗の様な、優しい光———……


そして球体の様に丸い光が静かに浮かんでいる。双葉はそれをただただ見ていた。
一度に二人も失った仲間を髣髴させる光に、自然と涙を零している。


「あら……間に合いませんでしたわね」


静かそうで透き通る声が聞こえた。ふと振り向くと見たことの無い、自分と同年代の白銀の髪の少女。
溜息を着きながら後ろに居るもう一人の前髪の長い少女に語りかけていた。もう一人の少女も溜息を着く。
そして躊躇う事無く、白銀の髪の少女は持っていた弓を構えて、球体の蒼い光を撃った。


パリィィィィィィィィィィィィィン!!


派手な音を立てて、光がいとも簡単に打ち砕かれる。まるで先ほどのような光景に双葉は絶句した。
こいつら、敵……!? ブーメランを再度構える双葉を前髪の長い少女があしらいながら指を差す。
指の指している方向は、先ほど壊れた光の所だった。双葉はブーメランを構えつつもそちらを向く。
自然と首が動いていた、が正しいのかもしれない。


「うわっ……!!」


すると、穏やかだった光の中から眩しいほどの強いオレンジ色の光が現れる。力強い光だ。
双葉は恐る恐る、眩しくない風に徐々に目を開けると、再度絶句した。この光はただの光では無い。





「陽光の……十字架?」





それは資料で見た物と全く違わない、光を放つ十字架……陽光の十字架だった。
そして少女達は二人とも頷いて語り始める。


「櫻井夏苗は“ブルークロス”と言って、陽光の十字架を宿す半・吸血鬼なんですの」


「半・吸血鬼……?」


驚く双葉にこくりと頷きつつ今度は前髪の長い少女が言葉を続ける。奇妙な光景だった。
光が眩しく、やや目を開けにくかったが双葉は少女を直視している。


「“ブルークロス”は宿主が死ぬと世界の危機を感じ取り、陽光の十字架を開放します」


「じゃあ、宿主が死ななければ……夏苗が死ななければ陽光の十字架は永遠に現れなかったの?」


「はい。どうやら最期を見ていた限り、“吸血鬼”が出ている間に夏苗はそれを理解したらしいですね」


……夏苗が自ら死ななければ、“吸血鬼”は滅びなかった? 双葉はその思考が頭を巡る。
夏苗が死んだから、陽光の十字架が復活した……? そんな、どうして……!!
しかも、夏苗は意識を失った時にそれを理解して自ら……命を立ってって言うの!?
双葉は自分の心の中で叫ぶ。叫んで、叫んで、叫び尽くす。そしてまた涙が零れた。





「…………しかし、貴方方もすぐに彼に会えますよ」


「どうしてさ」


ふと、先ほどの事もあってか双葉は嫌な予感がした。見えない様にブーメランを構えつつも問う。
しかし帰ってきたのは意外な答えだった。


「……人間ですから」


あぁ、何だ。そうだよね。ふと構えていたブーメランを手放し床へと落とす。
しかし誰も驚かず、誰も反応せずただただ時が過ぎて行く。
そしていくらか時間が過ぎた後、双葉が立ち上がり呟いた。


「……夏苗も、きっとすぐに会えるよね」







こうしてブルークロスは宿主を開放し







近未来に陽光を放ったのだった。





そしてそれは後々の






歴史へと刻まれ語り告げられる事であろう。


Blue cross 完