ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: Blue cross  オリキャラ締め切りました ( No.24 )
日時: 2010/10/25 20:16
名前: 浅葱 ◆jnintUZIrM (ID: m26sMeyj)
参照: http://PCが変わったので名前も変えてみました← 十六夜です

03 俺が俺で居られる日まで

「はぁ…………」


あぁ、疲れた。とでも言っているかの様に夏苗は先ほどまで走っていた足を止め、ゆっくり歩き出した。
それは夏苗が1階から3階まで急いで走ったけれど先ほどの任務の疲れと階段の段数の多さにより、もう走りたくないと言う意思の表れであると思われる。
……とは言え、そう難しく語ったところで疲れたの一言で語りきってしまえるものではあるが。


「あ、カナエ」


ふと後ろから自分の名前を呼ぶ声がして上を見上げると上の階段から微笑む不知火レンの姿が見える。
金髪に翡翠色の瞳。黒いフード付きの上着は何処か温かそうなものだ。
彼も“R・S部隊”の一員であり夏苗は何処か彼にシンパシーを感じているのか話しかける事が多い。
実は彼は天涯孤独と語れるほどの孤独の持ち主で過去に恋人がいたらしいが亡くなってしまったらしい。
それと、不思議な事に彼は良く戦闘を抜ける。しかし何処か自虐的な笑みがそれを相殺している気がした。


「久しぶりだね、レン」


夏苗は彼、レンの名前を呼びにっこりと微笑んだ。
そして疲れていた事も少し忘れ急いで階段を駆け上がり、彼の元へと行く。


「アネスさんに報告でもしに行くんでしょう?」


「うん、まぁ……そう言うところ」


自分のやろうとしている事をズバリ当てられてしまい若干苦笑しつつも夏苗はやや答えをはぐらかす。
尤も、それが正解だと言うのはレン自身知っている事なのだろうから意味は無いのだけれど。
まぁ、それはさておき二人は会話をしながら近日あった任務などの話をしていた。


「あ、そう言えばアネス何処か知らない?」


「さっき4階の応接間に居ましたよ」


そして会話に気を取られる、と言う事は流石にしたくなかったので夏苗は探している人物の場所を聞く。
レンの情報を聞き、夏苗は感謝の言葉を言い手を振ると足早に探している人物—アネスの元へと向かった。
手を振った後の手は、何処か空しい気がした。


(俺がシンパシーを感じるのは、このせいか)


夏苗は自分の手のひらを見ながらふと気付いた事に感心しつつもまた苦笑の笑みを浮かべる。
……自分とレンは何処か気が合う気がする。そんな勝手なシンパシーが自分の中でようやく繋がった為だ。
そう、レンは恋人を失ってそれ以来(いや、以前は知らないけれど)感情表現が苦手になったらしい。



……弟も居て充実した夏苗に何処がシンパシーがあるのか?





(俺も、レンも……何かが壊れているから)




——————それは、後々知るであろう。

恐らく、いや絶対に。


……暫くして4階中を走りようやく応接間を見つけた。扉から何処か重々しい雰囲気を感じる。
夏苗は任務やら何やらで乱れた服装を整えつつ扉をノックした。
返事は無い。しかし、夏苗はそれが肯定の意味だと言う事を知っていたので静かに扉を開けた。


「入るよ……」


“R・S部隊”で夏苗のみ、副隊長に使える親しみを込めた口調で話し、部屋の中へと入る。
そして部屋に入るとすぐに見えたのは青のかかった黒髪、冷たい緋色の瞳—“R・S部隊”副隊長のアネス・フラットの姿であった。
表情は冷たく、無表情であったが夏苗は特に気にする事は無く彼に軽く会釈をする。


「遅かったな」


「“吸血鬼”が村に増殖してて、村人を守るのと平行作業してたから」


アネスの一言に夏苗は今日何度使ったか分からない苦笑を見せつつも弁明をした。
納得したのかしてないのか、アネスは特に問いただす事は無く応接間の椅子に座る。
そして夏苗と光の行った任務の資料を見ながら眉をほんのわずかに顰めてまた無表情に戻る。


「……お前の事は、バレてはいないな?」


暫しの沈黙の後、夏苗は静かに頷く。


「うん。誰にも知られていない」


哀しげな、それでいて強い意志を込めた瞳にアネスはそうか、と呟いてまた資料に目を戻す。
……どうやら二人には共有している秘密があるらしい。しかも夏苗の身内、光さえ知らない様だ。


そしてまたアネスは視線を夏苗に戻し口を開く。
呟かれる言葉の一つ一つが、何かを物語っているかの様に深く重かった。


「気を、許すなよ」


「分かってる」


「我を失いたくないなら、尚更だ」


「それも、知ってる」


「…………なら良い」


アネスは緋色の瞳で夏苗を見据えた後静かに頷く。
夏苗は今度は笑みすら浮かべていない表情でアネスを見ていた。……何処か、分かり合った風な表情で。


(大丈夫だよ、アネス。俺は誰だって信頼しない。アネス以外には誰にも秘密を教えていない)


夏苗は目を閉じながら、そう、呟いた。