ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Blue cross ( No.75 )
- 日時: 2010/11/07 16:19
- 名前: 浅葱 ◆jnintUZIrM (ID: m26sMeyj)
10 理性は何処へ——— 前編
「ギルバート様、“異教者”の輩がやって参りました」
深き森。深緑色の連なる針葉樹の上の、到底人には上れない場所に二人の人影があった。
真っ白で少し長い髪がふわりと揺れ一つ目の人影、レオンは人狼の群れのリーダー、二つ目の人影のギルバートの名を呼ぶ。
名を呼ばれたギルバートは面倒くさそうに顔を上げて己の銀髪を鋭い爪で掻いていた。
「ちっ、もう来やがったのか……俺は“異教者”の奴らを片付けるから、レオは人間どもを片付けろ……それと」
「承知しました……どうなさいました」
レオンは承知した風に頭を下げると不思議そうにギルバートを見る。彼は元々鋭い爪をさらに鋭く、長い牙をさらに長くしてからニヤッと笑う。
そして自分の事を指差しながらこう呟いた。
「俺の事はギルと呼べつったろ? ギルバートの名前で呼ばれんのは妙に好かねぇからな」
「はぁ……了承しました。それでは暫しの間」
そう言いレオンが頷くのを見るか見ないかの内にギルは樹から飛び降り見えてきた“異教者”の方へ向かう。尤も見えているのは特化した視力を持つレオンとギルのみなのだが。
そしてレオンも急いで樹から飛び降り、驚く事に樹の下でずっと待ち伏せしたらしい人間と目が合う。
しかも一人ではない———推測するところ50人程、恐らく近くにあった山村の人間達だろう。
「人間……“また”お前らは俺を殺そうとするのか…」
レオンはやや意味深にそう言うと人間達が返事をするのも待たずに襲い掛かった。
人間達も急いで武器を構えたが———各が違う。レオンは爪で一気に五人切り裂き牙で一気に二人を裂く。
早速七人が絶命し、人間達はレオンに襲い掛かる。その表情は何処か恐れと焦りを感じさせた。
「消えてしまえッ! 化け物!!」
人間の誰かがそう叫ぶのを筆頭に火の着いた薪が投げられてきた。レオンはそれをキャッチして逆に人の方へと飛ばす。人間達はますます混乱しているのが目に見えていた。レオンは冷徹な眼差しを人々に向ける。
“コイツらも所詮……“異教者”の手前”。レオンはそう考え、人間に情を抱こうとはしない。
「邪魔だ。無能な集まりが」
レオンはそう言うと自分の爪や牙を使い瞬く間に人々の群れを鮮血で染め上げてゆく。
逃げ出そうとする者も、膝を着き助けを請う者も、横転し身を庇おうとする者もどれも鮮血に染める。
容赦の無い、そして圧倒的な裁きでもあった。そして人間の群れはようやく最後の一人となった。
最後の一人、村ではかなりの地位を持っているらしき中年の男が追い詰められて泣き叫んでいる。
哀れな奴だ。レオンは冷たい眼差しをその男に向ける。
「ゆ、許してくれ……! あ、あんたに従う……人狼にだって、“異教者”にだってなってやるから……だか——————」
言葉は不自然な所で途切れ、次の瞬間には見るも無残な男の裁きの後が目に映る。これまた鮮血に染められている。……哀れな人間の結末だとレオンは思った。
そうだ、人はいつだってこうなのだ。都合良く自分達の群れに居るがいざこうなれば仲間をも殺すだろう。
俺は違う、一生ギルバート様に仕える。
「あぁ、ギル様と合流しよう……」
レオンはそう呟き無残な結末を迎えた人間の群れなど放っておき驚くべき速さでギルの方へと向かう。
丁度、“異教者”とギルの戦いの最中だった。