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Re: Blue cross ( No.83 )
日時: 2010/11/08 18:56
名前: 浅葱 ◆jnintUZIrM (ID: m26sMeyj)

11 理性は何処へ——— 後編

レオンが頷くのを見るか見ないかの内にギルは木から飛び降り、見えた人々の集団“異教者”の方を見る。
一見、“異教者”と人狼のリーダーが合流したかの様に見えた。否、“異教者”達はそう思っていた。
ギルの目的は決して合流などではない。合流と言う言葉とは寧ろ真逆の目的がある。


「人狼の長、ギルバート様だ! 全員敬礼せよ!!」


木から下りたと同時に一人の“異教者”が武器の斧を持ちながら恭しく頭を下げる。
それにつられて他の“異教者”達も恭しく頭を下げ、中には膝を着く者さえ居た。
最も今のギルにそれはどうでも良かった。逆に“異教者”達が武器を振り下ろそうとしてもそれは変わらない。ある意味皮肉なものだった。


「おいおい、俺は合流目当てで来たんじゃねぇぞ?」


「ははっ。いきなりのお会い、無礼とは存じております。しかしながら我々から少しギルバート様にお伝えしたい情報がありまして……」


いかにも嘘臭い敬語。明らかに使い慣れていない、ぎこちない敬語だった。
ギルは繭一つ動かさず勝手に話し続ける“異教者”の男を見ている。その目は何処か冷たい。
しかし気付かないのか、気付こうとしないのか男は話を続けていた。


「現在こちらの村に“R・S部隊”の者達が来ております。ギルバート様の強さはご存知ですが、流石に危険だと思い我々も加勢に参りました」


「……内容はそんだけか?」


男は一瞬戸惑いながらも頷く。ギルは冷たい目を向けるのは相変わらずで、男の方へと向く。
ギルの中に知らない内に憎悪や嫌悪感が溜まり、それが心を支配しつつあるのが分かった。
誠意の感じられない敬語、明らかな社交辞令……短気な所の有るギルにとってそれは怒りを買うだけの事はあった。そして密かに爪を伸ばしながら話す。


「そうか……了解した。だが……」


「ありがとうございます! 何たる幸運でしょう——————」


ギルの言葉が少々小さかったのか、男の緊張の糸が思わず切れてしまったのか、男は口走る。
そしてギルは容赦なく腕を振り上げると、男の脳髄に爪を立て、脳味噌を引きずり出す。
容赦の無い惨劇と手を組んでいる筈の人狼からの惨劇に“異教者”達は驚きだした。
そして逃げる者と戦いだそうとする者の二種類に分けられる。


「お前ら人の話を聞いてなかったのか? 俺は最初から合流する気なんてねぇってなァ!!」


牙を使っていたレオンとは対照的にギルは爪のみで惨状を繰り広げていた。否、繰り広げられていた。
そして“異教者”達は体の一部を抉られ、体全体を裂かれ、半身を裂かれ……様々な死に様を見せる。
そんなに時間も経っていない時には既に“異教者”達は全員命を途絶えさせていた。


「チッ……」


否、一人だけ残っていた。短い白髪———正体は夏碑であった。やはり強さは伊達ではないらしい。
しかし夏碑は結果を知っていたかの様にあまり動揺はせず走り去っていった。
ギルは特に追う事も無く、恐らく今こちらに向かっているであろうレオンが来るのを待つ。


「面白い事になって来やがったなぁ……ククッ」


奇妙な笑い声が、呟きの様に小さく聞こえる。そしてその直後にレオンの姿が見えた。
ギルはそれを見ながら、また小さく笑いを漏らした。