ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ
- Re: Blue cross ( No.96 )
- 日時: 2010/11/14 14:04
- 名前: 浅葱 ◆jnintUZIrM (ID: m26sMeyj)
14 されどそれを世の中と彼は言う 後編
パァァァァァァァァァァンッッ!!
先ほどより派手な音がしたかと思うと彩は咄嗟に身を庇う。しかし、それはジャッカルの想定内だった。
弾は彩にも何にも当たらず、音を立てて爆発する。そして噴煙を辺りに撒き散らす。
「……!!」
風昴を振り、何とか煙を消すが既に其処にジャッカルの姿は無かった。逃げ足が速いらしい。
殺そうとしたのかと思ったじゃん……彩は頭をかきつつ心の中で愚痴を漏らす。
しかしそんな愚痴を(心の中で)漏らしているのもつかの間、すぐに人がやって来た。
餡子にレンに來華……自分と同じグループのメンバーが銃声を聞きつけてやって来ている。
彩はいつも通り手をひらひらと振りながら微笑んでいた。まるで、さっきの殺気など無かった風に。
「銃声が聞こえたので……隊長、大丈夫でしたか?」
冷静なようで心配そうな様子を含んでいる声に彩はそれを解そうと微笑みかけた。
「あぁ、全然平気♪ ちょっとばかし“異教者”っぽいのが居たからね……」
そう言いながら静かに風昴を鞘にしまう。途端に殺気は完全に消え“いつも”の彩に戻る。
この変化に気付けるのは恐らく“R・S部隊”の現在分かれているグループの人達くらいであろう。
「大丈夫じゃないですよ、隊長。怪我してます」
すると苦笑した表情でレンが話しかけてきた。そして彩の足を指差す。どうやら先ほどの戦闘で知らない内に足に傷が出来ていたらしい。
すると來華が持っていた救急箱から包帯を取り出しあっと言う間も無く彩の傷に包帯を巻く。
「あらま……ありがと、らいちゃん」
「いえ。こちらこそ申し訳ありません。不注意でした」
そう言いながら來華はきっちりとお辞儀をした。流石真面目な性格だなぁ、と彩は感心する。
……そして餡子が持参していた時刻表を見ながら時計を見て全員の方を向く。
「そろそろ電車が来ますから、ホームに行きましょう」
全員頷くとさっさとホームへと走り出した。順番は前からレン、來華、餡子、彩となっている。
そして走りながら特に表情を見せていなかった彩はずっと先ほどの戦いの事を考えていた。
ジャッカル。ある日突然“異教者”の支援を始めた元軍人……彩も多少圧倒された殺気。
(困ったもんだね……自分で感情が制御できなくなりそうだ)
声には出さず、苦笑する。果たしてその言葉がどう言う意味なのかは全く知られていない。
否、誰も知る由も無い。全ては彼女のみ知っている事だから。
(彼なら多分、きっと……こう言うでしょうね)
彼の所を心の中で強く呟きながら彼女は溜息を着く。他の全員は前を向いていて気付いていない。
彼女の心の声も、彼女の悲しそうな目も、苦笑した表情も全てに気づいていない。
……“彼”であったら気付いていただろうか、彩はそう思いながらまた苦笑する。
———(されどそれが世の中、だって)
電車の来る前の笛の音が鳴る。
全員スピードを上げて走り出した。