ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 神の能力者 ( No.43 )
日時: 2010/12/18 21:25
名前: メゾ (ID: dSN9v.nR)

第三十一話  「大嫌い」

次の日。何もなかったように学園はいつも通りだった。しかし、いつも通りじゃないものがあった。
「ミュリは休みか」
ぐったりとしたトレアは机に寝そべっていた。コルルもソマリもその周りにいる。
「あいつにはもう能力がかかっているから、取り返すのはきついよなあ」
コルルがのびをしながら言った。ソマリもうーんと唸る。すると、
「あ!!」
トレアが何か思いついたように顔を上げる。そしてぐるんと頭を回し、
「ソマリ大丈夫?蹴られたとこ、アザになってない?」
「は?」
突然言われ、目が点になる。そして、ようやく言っている意味がわかり、
「大丈夫だから。気にしなくていいよ」
と、微笑しながら言った。しばらくは別の話題で盛り上がっていた。
ピリリリ
トレアの携帯が鳴った。メールの相手は
「ミュリ———?」
慌ててメールを見る。コルルもソマリも覗き込んできた。
『さようなら。あなたなんて大嫌い』
空気が変わった。

*

トレアはガタ、と席を立ち、教室を出て行った。残った二人は追いかけようとはしなかった。
向かった先は屋上。ナタリーがいた。彼女はトレアを見ると、静かにハンカチを差し出してきた。受け取ると、たっと階段を下りて行った。
自分の顔を触ると、濡れていた。視界が歪む。一人でいることをいいことに、声を出して泣いた。
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい——————」
時間を戻せるのならば戻したい。会ったときから自分が皇女だということを告げればよかった。
ずっと後悔ばかりしていた。大切な親友を失い、弟も月の騎士に殺された。
自分は失ってばかりだ。
守れるものは一つもない。
だんだん屋上の柵から身を乗り出していく。ヒュウウ、と風が吹き、人が小さく見える。
ならここで死んで、リュランに会いに行こう———。


「まちなよ。ここで死んだらペルソナに負けたままだよ。それでいいのかな?」
ふと見ると、一人の少女が屋上のドアに寄りかかって自分を見ていた。
「わたし…?」
自分と同じ顔。同じ声。まるで鏡にうつしたようだった。少女はゆっくり動き、近づいてきた。身を乗り出したままのトレアの腕を引っ張り、柵から離す。ふふっと笑い、
「そっか。会うの初めてだっけ。私はユオ。よろしくね」
と、自己紹介をした。トレアはユオの目をじっと見てから
「あなたも特殊能力者?」
と、鼻声で聞いた。ふふふふと彼女は笑い、
「ちょっと違うなぁ。私は特殊能力者だけど、特殊能力者じゃない」
と、意味不明なことを言った。「?」とトレアは首をかしげる。もう一人の自分はしょうがないな、とばかりに目を閉じた。目を開けると黄色の目が赤色になっていた。
「え…?」
コルルと同じ目。「炎」の能力だった。もう一度目を閉じ、再び開けるともとにもどっていた。ユオはどう?という顔で同じ顔を覗き込んだ。
「あなたはいったいなんなの?なにがしたいの?」
トレアが聞いた。すると、一瞬、は?と言う顔をし、またもとの穏やかな顔にすぐなり、言った。
「ごめんね。もう時間だから。行かなくちゃ。バイバイ」
手を振り、飛び降りた。残されたトレアはすぐに柵の方に行き、
「え?!死…」
死んだ?!と思ったが、下には何もなかった。それから大きく息を吸った。グシグシと顔を拭き、ぐっと体に力を入れる。
「よし!!」
そして、階段を下りて行った。
ユオ、か。不思議な人だな。と思いながら。