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Re: 神の能力者 ( No.44 )
日時: 2010/12/21 21:50
名前: メゾ (ID: dSN9v.nR)

第三十二話  「死怨」

暗く、明りはない。真っ暗な部屋。音もなく、静かだ。辺りは妖しい空気に覆われている。人影はあるようだが、動きもなにもない。まるで死んでいるようだった。
しばらくすると、ボボッとろうそくの火がついた。ようやく顔が見えるようになった。皆、目は藍色。トロンとしている。その人たちの中心に一人の青年が座っていた。
「では、新しい幹部の紹介をしよう」
声がかかると、一斉に一人の少女の方に視線がいった。少女は堂々と開いた道を歩く。そして、青年の隣に並び、自分の名前を言った。
「ミュリ・アーバン」
淡々と。感情のこもっていない、冷たい声。学生としての明るさはなかった。月の騎士はニヤリと笑い、指をパチンと鳴らした。ミュリの目が大きく開く。体をくの字に曲げ、頭を抱え出した。
「ううう。つぅ……」
唸り声が響く。しかし、誰一人動揺しなかった。いたって普通にその様子を見ている。この人々は「操」の能力によって人形となった一般人である。「操」の能力は、人の潜在能力を普段より高めることができる。つまり、ここにいる人は皆、力は強く、身体能力が高い。月の騎士はこれが目的で「操」の能力を使っていた。
すべてはエテリアル帝国の実権を握るため———
「うぁぁ」
ようやく唸り声が止まった。ミュリは立ち上がり、顔を上げる。その顔はさっきとは違っていた。
右目が藍色、左目が茶色。どう見ても不自然だった。月の騎士は再び指を鳴らす。
「試しだ」
今度は両目とも藍色になる。だっと走り、一人の男を斬った。ブシュッと血が舞う。血が彼女の顔についた。ほう、と息をつき、
「君はもうミュリじゃない。君は『快楽殺人鬼』になるんだ」
少し間を開け、手を広げて言った。
「君の新しい名前は———『死怨』だ」
「我々はお互いを漢字の名で呼ぶのだ。悪くはないだろう?」
死怨はゆっくりと振り返る。月の騎士はまたパチンと鳴らした。
すると、バタバタと人が倒れて行った。死怨以外は。目が元にもどり、彼女は口を開いた。
「何故私以外の人を倒した?」
口調が全く違う。藍色の目が鋭く光った。すると、彼はただ一言だけ言った。
「ペルソナ」
は?と聞き返したくなったが、そのまま彼は出て行ってしまった。残された死怨は自分の顔を触る。
ぬるっ
気持ち悪い感触。べっとりしている。何これ?と思い、指を見る。
赤い液体がついている。下には斬られた人が転がっている。これは———
「私が…。したの…?」
この見知らぬ人を自分が?何故?
違う。これは人形。指や顔に付いているのはただの赤い絵の具。そうだ。
自分を守ろうとする。しかし、心の中はこう叫んでいた。
人殺し!! 死神!! 悪魔!! 鬼!!
違う!! 違う違う違う違う違う違う違う………

ようやく結論にたどりついた。これをしたのは…自分。
そして自分はもう死神になっていたことを。
そう思うと何故か笑えてきた。
「ふ…。あは。あははは。あはははは、あはは、あははははははは」
しばらく笑い声が絶えなかった。倒れた人々の真ん中に立つ少女。
自分の存在を確認するために血のついた手で顔や手や首を触る。
彼女はいつの間にか血だらけになっていた。笑いながら考える。

自分は完全に狂ったんだ。人を殺しても笑っていられる。
そうだ。これで復讐ができる。狂った自分ならなんだってできる。
自殺だって、人殺しだって。一つの罪と十の罪は同じようなものなのだから。
必ず——————
トレアを殺してみせる。
あいつを殺すのは月の騎士ではなく、自分だ。



*後書き*
今回はトレアちゃん中心ではなく、ミュリちゃん、いえいえ、死怨ちゃん中心でしたね。
恐ろしい名前に、と考えていると、ふと「死」という言葉と「怨」という言葉が思いついたので「しおん」と言う名前でつけさせていただきました。
ネーミングセンスのなさをどうか見逃してください。
次回は新キャラ登場です。敵キャラなんで、どうぞよろしくお願いします。
眠くなってきたのでそろそろここまでにしときたいと思います。
あ、すみません、ここ最近、後書きを書いていないものがあります。ヒマがありませんでした。ごめんなさい。
第三十二話、最後まで読んでくださり、ありがとうございました!!
              メゾ