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Re: 神の能力者 ( No.45 )
日時: 2010/12/22 11:56
名前: メゾ (ID: dSN9v.nR)

第三十三話  「心」

「ですってー。ペルソナぁ」
風通しのよい、とあるビルの屋上。ロングスカートをはき、全身真っ黒でまとめている女が一人、柵に座っている。
女はセミロングの髪にサングラスをかけている。スタイルは抜群で、真っ赤な口紅をつけている。妖艶だった。
しばらくすると、真っ黒なマントをはおった青年が現れた。
「その呼び方はやめろ。魔鬼」
「その名はもう捨てた名だ。でしょう?」
女——魔鬼は読みとったかのように言った。やがて柵から下りた。髪がなびく。しばらくの間、二人はずっと黙っていた。
「さすがだねー。あなたのような人は二人といないだろうねぇー」
沈黙を突き破るようにのんきな声が出た。月の騎士はさっきとは違う、穏やかな顔で、呆れたように言った。
「お前…。何でもかんでも『読もう』とするの、やめろ。何も考えないようにするの、すごくきついんだよ」
魔鬼はふふっと笑うとサングラスを外した。緑色の鋭い眼がのぞく。その外したサングラスを、細く長い指で遊びだした。まるで、小さい女の子が遊んでいるような仕草だった。月の騎士は、はあ、とため息をつく。
「まったく。お前のような奴は扱いにくいよ。だって?失礼ね」
サングラスをいじくりながら言った。「読まれた」彼はげ、という顔をする。
「お前、あんまり使いすぎるのはよくないぞ」
すぐに表情をもどし、極めて冷静に言った。その言葉を聞いた途端、遊ぶのに夢中になっていた彼女が顔を上げた。
緑色の特殊能力の目。魔鬼は「心」の能力者である。妖怪で言う、「サトリ」のようなもので、心を「読む」ことができる。彼女は月の騎士に出会う前、この能力を生かし、人をだましたりしていた。相手の心を読み、動揺したところを襲う。今までそうやって生きてきた。これからもそうやって生きて行くつもりだった。
ある日、「ペルソナ」と呼ばれる青年にあった。いつものように心を読み、動揺するだろうと思っていると、
「なるほど。君が『心』の能力者か」
逆に自分が「読まれた」ようだった。青年はずっとこちらを見ながら笑っている。もう一度「読もう」とした。しかし、
「読めなかった」読もうと、読もうとするたびにもっと読めなくなった。
どうして——。
自分が動揺していると、青年は
「僕に仲間にならないかい?」
と言った。一人だった彼女は、意味もわからずに頷いた。
これにより、「魔鬼」という名前をもらい、「幹部」という位置を取ることができた。

「新しい幹部の子はどうなの?」
話題を変えた。もう一度サングラスをかけなおす。月の騎士は
「使えそうだよ。僕の敵の親友だったみたいだからね」
と、今度は不敵に笑いながら言った。魔鬼はうーんと伸びをしながら
「トレアちゃんの親友?ふーん。すごいね」
「あくまで思いこみかもしれないけどね」
少し彼女は月の騎士の顔を見たままだまった。しばらくすると、真剣な顔になり、口を開いた。
「あのさ。気をつけないと、あなたも殺されるかもしれないよ」
彼はちらっとその真剣な顔を見ると、また目線をもどし、
「平気さ。一応能力は使っているし、まさか心配してくれてる?」
「してない」
即答だった。つれないねぇと言う顔をする。魔鬼はあきれ、月の騎士の横を通り、階段を下りて行った。残された彼は、
「君は自分の名前を忘れているようだね」
と、つぶやいた。
「悪いと思ったけど、能力を使って聞き出させてもらったよ」
しばらく間をおき、さらっと言った。
「フォーミシェル」



*後書き*
すみません。今回もトレアちゃんが出てきません。
それと、あんまり時間がないので、今回はここまでにしていきたいと思います。
ありがとうございました。
               メゾ