ダーク・ファンタジー小説 ※倉庫ログ

Re: 非道で純粋な恋 参照100突破! ( No.38 )
日時: 2010/11/05 22:26
名前: 浅葱 ◆jnintUZIrM (ID: m26sMeyj)
参照: http://PCが変わったので名前も変えてみました← 十六夜です

02

「うごぁ……ぐほっ……」

ヤバい。早く、早くしないと……“アレ”に体を乗っ取られる。そんな気持ちでトイレへと向かう。
そしてすぐトイレに着き扉を乱暴なくらいに閉めると息を切らせて震える手を押さえた。
手の震えは止まらず、ひたすら何かを傷つけようと暴れんばかりに蠢いている。
そう、“アレ”が目覚めようとする時“アレ”は必ず何かを傷つけようとするのだ。
もう絶対に人を傷つけるのは嫌だから、“アレ”が目覚める時は誰も居ない所で目覚めさせる。



……簡単に言えば自分を傷つけさせるのだ。


蠢く手は自分のもう片方の腕を掴みギリギリと筋を作る程に爪を立てて血を流させた。
けれど脳内には痛覚よりも動悸の激しさの方が響いていて何処かドキドキとする。
このドキドキは心情から来るものでは無い。恐れや畏怖、緊張の様な物がら来ていた。
そして腕を引っかき、爪を立てると今度は首筋へと移動してまた爪を立てる。

「痛ッ…………!!!」

痛みを必死でこらえ、切れるほど唇を強く噛んだ。けれど痛みが収まるわけは無く、さらに増していた。
“アレ”は俺の体を乗っ取ろうとしている。だから、だから負けるわけにはいかない。そう心に秘める。
けれど“アレ”はそんなのを知るわけも無く爪をさらにギリギリと立て血を流させた。
そして爪だけでは無駄と分かったのか、一瞬腕が首から離れたかと思うと爪の攻撃をやめて


拳を使い始めた。


「ぐはぁっ! うぐぁぁ……」


拳は容赦なく俺の腹を突き、容赦なく殴打を続ける。今度は痛みと言うよりも苦しみが強かった。
傍から見ればさぞや滑稽な光景なんだろう。そう思う余裕なんて既に消えている。とにかく苦しい。
胃液らしいものが殴られた衝撃で口から吹き出す。けれど殴打はそれを拭くことすら許しはしなかった。

ゴスッ……ドスッ……

「かはっ……はぁ、はぁっ……」

強い衝撃が何度も襲うくせに痛覚はずっと鈍らず生々しい痛みが俺を襲う。勿論殴っている“アレ”は自分自身を殴っている訳では無いのだから容赦なく殴っているのはきっと当然なんだろうけど。
意識が段々薄れてきた。もし、このまま意識が途絶えれば絶対に“アレ”はここの扉を開けて教室へと行き……また……いや、それは無い。させはしない。
また唇を強く噛み締め、殴打の攻撃を耐える。

スゥ…………

突然腕がだらりと落ちたかと思えば薄らいでゆく意識が急にハッキリとしてきた。
“アレ”はようやく消えたらしい。俺は安堵の溜息を着いて体を起こす。途端に吐き気が俺を襲う。
急いで口を押さえ、便器に顔を向ける。


「うごぉ……ぐえぇぇ……」


化け物の泣き声かの様なうめき声を出しながら吐く。ようやく吐き気も吐きも収まりトイレを流す。
これで何とか“アレ”が収まった。あぁ、良かった。
頬に何かが伝う。きっと血だろう、そう思い乱暴に手の甲で何かを拭い血を吹いて服装を直す。
そして扉を開けてトイレから出る。そして鏡を見ていた。鏡に映るのは当然、自分の顔。
だけどいつ自分が自分でなくなるのか……

「ッ……」

ふざけるな、俺は俺だ。自分は自分。自分が消えることなんて絶対に有り得ない。
それなのに、まだ涙は止まらない。その場に膝を着き嗚咽を漏らしながらただただ泣き続けた。
《あいつ》は今、どうしているんだろう……